東法連ニュース

第2015年(平成27年)5月号 第351号

税制講演会 
相続・事業承継の最新動向を幅広く具体的に解説

あいさつする
菅野秀雄税制税務委員長

講演する
布施麻紀子氏

 東法連は3月5日、ホテルメトロポリタンエドモントにおいて税制講演会を開催。各単位会から税制委員、会員、一般の方々など合わせて200人が参加した。

 講演会に先立ち、菅野秀雄税制税務委員長(副会長・江東西法人会会長)が開会のあいさつを行った。

 講演会は、山田コンサルティンググループ取締役の布施麻紀子氏が、「平成27年度税制改正(案)のポイントと相続・事業承継の最新動向」をテーマに行われ、幅広く具体的に解説した。講演内容は次のとおり。

熱心に講演に耳を傾ける参加者

 

事業継承対策まずは現状把握
 事業承継対策、皆さん気になっていることと思う。最新情報を持ち帰っただけでは何も変わらない。まずは現状把握が大事だ。何が問題なのか、将来何が問題になるのか、いつまでに何をやらなければいけないのか、そして実行に移す。これが大事だ。
贈与は税より本人の考え方が大事
 相続税は減税の繰り返しであったが、ここへ来て大きく増税に舵を切った。残念ながら、昔のようにひとつの節税対策で相続税が零になる時代ではない。対策のひとつは贈与で、身軽になっておけば将来税金は安くなる。しかし贈与するかしないかは、税金の大小よりもまず本人の考え方が第一である。早めに子供や孫に贈与して幸せになれるとは限らない。そういう考え方もある。
 早めに若い世代に贈与させて、消費してもらうことが景気対策だとの観点で、相続税の増税とともに、贈与税の改正が相次いでいる。
納税資金の目安・算段が大切
 土地や自社株などの評価で相続税額の当りをつけることから始まる。そして相続税の納税資金をどうするか。預貯金とか上場株などの金融資産であれば問題ないが、土地建物などの不動産、自社株だと右から左へは払えない。相続税はいつ払うことになるかわからない。節税も大事だが、万一の時にはどうやったら払えるか、目安、算段をつけておくことが大切。
事業に関する財産は事業承継者に
 事業に関する財産は事業承継者にまとめていただきたい。分散して悩みが深いという経営者をたくさん見ている。また、社長個人の土地を会社に賃貸している場合も事業用資産にあたる。これを事業に関係ない親族が持っていると、売却や土地を担保にした借り入れの時に不都合が生じる。
相続税の軽減対応
 できる相続税軽減対策はやるべきである。自社株の評価には細かいたくさんのルールがある。ルールによっては100倍になる場合もあって、その違いは紙一重。ルールを知って対応するのと、無頓着なのでは相当差が出る。また今年から土地に優しい税制改正がスタートしており、一定の要件を満たすと、土地の相続税が8割引になる制度がある。今までは自宅か事業用のどちらかしか割引が受けられなかったが、今年から両方OKとなった。会社で買う事業用不動産も個人で買った方が得をすることがある。事業用不動産を購入する時は、個人で買った方が良いのか、会社なのか早めに税理士に相談するとよい。
贈与税非課税措置
 住宅取得資金及び教育資金の一括贈与に係わる贈与税の非課税措置が延長・拡充される。また、結婚子育て資金の一括贈与に係わる贈与税の非課税措置が創設される。これで最大だと住宅で2,500万円、教育資金で1,500万円、結婚子育て費用で1,000万円、合計5,000万円贈与税なしでもらえてしまう。将来、もらい続けて依存心の強い大人が子育てをすることになるかもしれない。そう思うと日本は大丈夫かと思ってしまう。まずは自分の老後資金を十二分に確保してほしい。それで余りそうだったら贈与する。この順番であるべきだ。何も考えないで贈与しているケースが結構多くて心配している。
出国時課税制度
 シンガポールや香港では有価証券キャピタルゲインが非課税で、移住してから売れば税金がかからない。出国時課税制度は時価1億円以上の有価証券を有する場合、出国時に譲渡したものとして課税する。ただ、一定の要件で有価証券を譲渡せずに帰国した場合課税が取り消されるので、最終的に納税となるケースはそれほど多くない。しかし、毎年海外に居ながら日本の税務署に届出を出す必要があるなど、手間暇、事務負担は相当かかると思われる。
法人税改革の道筋
 今年の改正は単年度の法人税改正ではなく、法人税改革である。成長企業を後押しするための改革であり、数年後を見据えた法人税改革の道筋をつけようというものである。
 法人実効税率は、現在34.62%であるが、引き下げて20%台を目指す。中小企業税制には手を付けていない。財源は課税ベースの拡大が主であり、今回の改正で、資本金1億円以上の大法人に対して外形標準課税を拡大する。法人事業税の所得割を減らして、資本割と付加価値割を増やす。資本割と付加価値割は赤字法人にも課税される。
 今回の改革では、所得に対する税率は下がるがその他は増える。ちょっと変化球が入っている。
事業承継対策は後継者の見極め
 事業承継対策とは事業をいかに継続発展させるかであり、単なる自社株の相続税対策ではない。大事なのは、事業の見極め、会社の見極め、後継者の見極めである。今の事業をそのまま継承して良いのか、後継者とともに考えていただきたい。また、子供がいても事業に関係していない場合や経営者に向いていない場合もある。後継者がいないときは第三者へのM&A、社内の人へのMBOなども最近は増えている。まずは現状の見極めが大切である。
直系尊属からの贈与は優遇
 生前贈与は、誰から贈与されたかで税額が変わる旨平成27年1月から改正されている。1年間の受贈金額が300万円を超えると、20歳以上の者が直系尊属から受ける贈与は一般贈与よりも優遇される。優遇の割合は受贈金額によって違う。
相続時清算課税
 税金のことを考えずに、好きなときにまとまった財産を譲れる仕組み。選択性で一度選択したら取り消しできない。活用したいケースは2つ。相続税がかからない家庭が贈与したい場合。2つ目は、相続税がかかる家庭で今後値上がりする資産等を早めにまとめて若い世代に移転したい場合。この制度は未上場会社のオーナー企業の自社株を想定してできた。自社株の評価は自社の業績、上場株の市況などによって左右される。たまたま高いときに相続することになりかねない。相続時だけではなく、バトンタッチする時期を自分の意思で選べる制度。
納税猶予制度は節税対策ではない
 自社株の相続税、贈与税猶予制度は節税対策ではない。事業継続を条件に、自社株の相続税、贈与税のかなりの部分を猶予、条件どおり継続された場合は税金が免除される制度。条件どおり継続できなければ、猶予されていた税金とともに、遅延利息も払わなければならない。継続の要件は、5年間従業員数の8割を維持(平均に緩和された)など厳しい。節税のために従業員の人数を維持するのは無理。だから納税資金が無いから納税猶予を受ける。これは絶対やってはいけない。
これからの相続税対策
 経営者個人の資産にかかる相続税は個人で準備するが、自社株にかかる相続税は会社で準備することを提案したい。運転資金とは別枠で会社が積み立てておく、保険でもよい。いつでも後継者に渡せるようにしておく。渡し方は退職金などいくつかの方法があるが、一番税金が少ないのは会社への株の譲渡、会社から見れば金庫株。税金の特例がいろいろとある。
 自社株は金融資産ではない。M&Aなどで売る時以外はお金にならない。自社株は経営用装置資産だと思っている。経営のため持つ必要があるが、何十年に一度代替わりの必要がある。その代替わりのコストが相続税や贈与税であると整理すべきだ。

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