税務最新情報

2024年09月10日号 (第516)

M&Aが予定される株式の相続税評価

 みなさん、こんにちは。涼しくなってきましたが、相変わらず急に雨が降るなど不安定な天候の日が多いです。従業員の危険を防ぐため、台風が来る際は会社を休業とするケースなどがあり、時代の変化を感じさせます。

 さて今回は、令和6年8月28日の東京高裁で行われた裁判の内容のご紹介です。

今回の事案の概要

 M&Aが予定され、一株10万5千円で売買することについて、売り手である被相続人と買い手で基本合意が締結されていました。その後、被相続人の相続が発生したという事案です。この相続税の申告において、M&Aが予定されている株式を財産評価通達に基づき一株8千円で評価して申告したところ、税務署に否認されたというものです。

 財産評価通達で評価すれば一株8千円が正しいのですが、一株10万5千円で譲渡する基本合意ができているので、税務署は、下記に基づいて財産評価通達による評価を認めないとしました。

財産評価通達 6
 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

 果たして、一株10万5千円で基本合意ができている株式について、評価通達に基づき一株8千円で評価することは著しく不適当と考えられるのでしょうか。

専門家による予想はバラバラ

 8月28日に高裁判決が出たわけですが、相続税で有名な学者や税理士による事前の判決の予想はバラバラでした。むしろ、納税者敗訴を予想する専門家の方が多かったように思います。

 納税者が勝訴すると予想していた人の考え方は、今回の事例では租税回避の意図がないとするものです。

 一方で、納税者が敗訴すると予想している人の考え方は、上記通達の「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産」であるか否かについては、租税回避の意図は関係なく、課税の公平な視点から判断すべきとするものです。

裁判所の判断

 高裁判決では、租税回避の意図は要件としていない旨を示した上で、財産評価通達による評価が、実質的な租税負担の公平に反するという事情はないとして、納税者を勝訴させました。ちなみに、税務訴訟で上記の財産評価通達6の適用が認められなかった事例は初めてということです。国側が上告を行うかどうかについては、現時点では不明です。

 

 今回の事例では、相続前に基本合意の契約は締結していましたが、実際の株式譲渡契約は、相続発生後に相続人と買い手の間で締結されているとの事情もあり、相続時点では基本合意した金額で売買されるか不確実な要素もあったと思います。実務を行うにあたり、参考になる部分もあると同時に、上告されるかどうかまで見届ける必要があります。

 

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