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2024年01月11日号 (第492)

令和6年度税制改正大綱 所得税② 適格ストックオプション税制の改正

 今年の税制改正大綱は、論点が多いうえに扶養控除等の見直し、生命保険料控除の見直しなど、令和7年分の税制改正見込みにまで踏み込んで記載されていました。過去、施行が数年先の改正は普通でしたから、改正見込みとするのは何か意図があると考えられます。

 さて今回は、適格ストックオプションに関する改正のご紹介です。

保管委託要件の緩和

 適格ストックオプションとするためには、いくつかの要件を満たす必要があります。その中でも発行した株式について、金融商品取引業者等の営業所等に保管の委託等がされることの要件については、上場前は非現実的な取り扱いと考えられてきました。

 適格ストックオプション契約の権利行使により交付される譲渡制限株式の管理等に関する契約に従って、その株式会社において株式の管理等がされる場合は、新株予約権の行使により取得する株式について、金融商品取引業者等の営業所等に保管の委託等をしなければならないとの要件が不要となります。

ストックオプションの権利行使時に課税の繰延べとなる金額の上限金額

 適格ストックオプション税制で一番大きなメリットは、権利行使時に一定の金額まで課税されない点です。実際に実務では、権利行使できるストックオプションを全部行使するのではなく、税金がかからない部分までのみ行使するという利用がされています。株式の評価額が思いのほか高くなった場合など、計画通り行使できないなどの悩みがありました。

 令和6年税制改正で、年間の新株予約権の行使に係る権利行使価額の限度額について、以下のとおりとされます。

 ① 設立以後5年未満の株式会社が付与する新株予約権については、1,200万円から2,400万円に引き上げられます。

 ② 設立後5年以上20年未満の上場会社の株式で、上場後5年未満である株式会社が付与する新株予約権については、1,200万円から3,600万円に引き上げられます。

 最大で3倍の限度額となりますので、非常に魅力的な改正です。ただし設立20年以上の会社については、従来通り1,200万円が限度額とされています。

付与対象とされる外部の協力者の範囲の拡大

 一般的にストックオプションは、従業員や役員など社内の人に付与されます。ただし実際は、社内の人だけの力で業績を伸ばすわけではなく、外部の協力者が存在するので、一定の要件を満たす外部協力者へも、ストックオプションの付与が認められています。

 中小企業等経営強化施行規則の改正を前提として、適用対象となる特定従事者に係る要件について緩和されます。

 まずは「3年以上の実務経験があること」との要件を、金融商品取引所に上場されている株式等の発行者である会社の役員については「1年以上の実務経験があること」とし、国家資格を有する者、博士の学位を有する者及び高度専門職の在留資格をもって在留している者については、実務経験の要件そのものを廃止します。

 さらに下記の者を社外高度人材の範囲に加えます。

a 教授及び准教授
b 金融商品取引所に上場されている株式等の発行者である会社の重要な使用人として、1年以上の実務経験がある者
c 金融商品取引所に上場されている株式等の発行者である会社以外の一定の会社の役員及び重要な使用人として、1年以上の実務経験がある者
d 製品又は役務の開発に2年以上従事した者であって、本邦の公私の機関の従業員として当該製品又は役務の開発に従事していた期間の開始時点に対し、終了時点における当該機関の全ての事業の試験研究費等が40%以上増加し、かつ、終了時点における当該機関の全ての事業の試験研究費等が2,500万円以上であること等の一定の要件を満たすもの
e 製品又は役務の販売活動に2年以上従事した者であって、本邦の公私の機関の従業員として当該製品又は役務の販売活動に従事していた期間の開始時点に対し、終了時点における当該機関の全ての事業の売上高が100%以上増加し、かつ、終了時点における当該機関の全ての事業の売上高が20億円以上であること等の一定の要件を満たすもの
f 資金調達活動に2年以上従事した者であって、本邦の公私の機関の従業員等として当該資金調達活動に従事していた期間の開始時点に対し、終了時点における当該機関の資本金等の額が100%以上増加し、かつ、終了時点における当該機関の資本金等の額が1,000万円以上であること等の一定の要件を満たすもの

 

 適格ストックオプションについて、上限額を大きくしたことは非常に使い勝手がよくなります。また地味ですが「権利者が予約券に係る付与決議の日においてその新株予約権の行使に係る株式会社の大口株主等に該当しなかったことを誓約する書面等」について、電磁的記録で提供できることに改正される部分も非常に使い勝手がよく、実務に配慮した改正と思われます。

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