税務最新情報

2023年10月10日号 (第483)

事業承継税制の失敗事例

 みなさん、こんにちは。インボイス制度導入後、「大手通販会社で商品を購入してもインボイスが交付されない(実は出力できます)」とか「交付義務がない一般の消費者からインボイスの交付を求められる」といった話が聞こえてきます。また、国税庁のインボイスQ&Aですが大幅に更新されたものが10月2日に公表されました。この辺りをもう少し情報収集してご紹介していきます。

 今回は、ジャニーズ事務所の記者会見で事業承継税制の話題が表面化したので、ご紹介していきます。

事業承継税制のあらまし

 事業承継税制には、恒久的な措置である一般措置と期間限定の特例措置があります。令和9年12月までの贈与・相続等であれば、令和6年3月までに特例承継計画を提出することで、特例措置が利用できます。

 事業承継税制を利用すると、経営者から後継者への株式の贈与・相続については、特例措置であれば100%の納税猶予、一般措置の相続であれば80%の納税猶予が受けられます。また納税猶予された税額については、後継者が死亡した場合の他、次の後継者へ事業継承税制を利用して事業承継された場合に免除される取扱いとなっており、事業承継を継続することで、納税をしないで済む可能性があります。

 とても有利な制度なので、利用できる場合はぜひ検討したい制度です。ただし現実には、事業承継自体が一つの会社で20年サイクルですし、後継者がいないケースもありますから、頻繁に利用するケースがあるというわけではありません。

事業承継税制のリスク

 事業承継税制は非常に有利な制度であるとともにリスクもある、と言われてきました。特に納税猶予を受けてから5年間の経営承継期間中は、下記の場合に納税猶予が取り消されます。

① この制度の適用を受けた株式等について譲渡等をした場合

② 後継者が会社の代表権を有しなくなった場合

③ 会社が資産管理会社に該当した場合

④ 一定の基準日における雇用の平均が8割を下回った場合(例外あり)

 さらに、経営承継期間である5年経過後も株式を譲渡した場合や、資産管理会社に該当した場合などは、納税猶予が取り消されます。

今回のジャニーズ問題で検証

 マスコミの報道等をベースにしているので詳細不明な部分がありますが、先代経営者であるジャニー氏とメリー氏の相続開始日から5年経過していないとの事です。

 事業承継税制を利用していた場合、相続税の申告期限から5年間が経営承継期間で、その期間中に相続した株式を譲渡した場合、後継者が代表権を有しなくなった場合は、納税猶予が取り消されることになります。

 最初の記者会計でジュリー氏が代表権を持ち続ける方向性だったのは、可能であれば事業承継税制の取消事由に該当しないように、という意向があったのかもしれません。しかし2回目の記者会見の手紙の中で「事業承継税制を活用しましたが、代表権を返上することで、速やかに納めるべき税金をすべてお支払いし」としていますから、全額納税する意向であることが読み取れます。

 

 事業承継税制を利用する際、5年以内の代表権返上、あるいは株式の譲渡はあり得ないという前提で進めていると思われます。しかし今回の事例では、納税猶予の取り消しという、事業承継税制の中では最悪のシナリオになるのかもしれません。事業承継税制の利用の際にはリスクを十分に説明し、それを納税者が理解することが重要、と身に染みる事件となりました。

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