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2023年01月12日号 (第456)

令和5年度税制改正大綱 消費税1

 みなさん、こんにちは。今回から、令和5年度税制改正大綱の内容をご紹介していきます。税目については、話が前後するかもしれませんが、優先度が高いと思われる項目からご紹介していきます。

適格返還請求書の交付義務の免除制度

 一般的に、インボイスと呼ばれる適格請求書については、条文上「相手方の求めがあれば交付の義務があるとする」というような規定となっています。一方で、適格返還請求書については下記のように規定しています。

 売上げに係る対価の返還等を行う適格請求書発行事業者は、当該売上げに係る対価の返還等を受ける他の事業者に対して、次に掲げる事項を記載した請求書、納品書その他これらに類する書類(以下この条において「適格返還請求書」という。)を交付しなければならない。

 事業の性質上、適格返還請求書を交付することが困難な場合の例外はありますが、基本的には無条件に交付しなければならないとされていました。

 ところが税制改正大綱で、下記のような記載がありました。

 売上げに係る対価の返還等に係る税込価額が1万円未満である場合には、その適格返還請求書の交付義務を免除する。

 1万円未満の対価の返還には、適格返還請求書の作成が不要になる、との改正です。

実務上は非常に大きな改正

 誰でも理解可能なたった一行の改正ですが、実務上は非常に大きな改正です。端的に言えば「売上代金が入金される際、振込手数料が控除されてくる」という実務への対応と思われます。

 売上代金から振込手数料相当額の数百円が控除された取引において、会計処理で振込手数料相当額を値引きとして、適格返還請求書を作成、交付することは、一般の実務としてはありえません。

 請求書の記載で前月請求残高、入金額、今月請求額、今月末の残高という形で数字の流れが追えるような形になっているケースが一般的です。具体例として110,000円の請求に対して振込手数料が660円控除され109,340円の入金があった際に、値引き660円と記載されているケースを見たことがありません。通常は、手数料が控除されていたとしても110,000円の入金があったと記載されています。

 理論上は振込手数料相当の値引きですが、感覚的には値引きという認識は乏しく、手数料相当は当然に差し引かれるくらいの認識だったと思われます。

 当初は、そのような慣行を無視して振込手数料相当が控除された場合、適格返還請求書を発行しなければならないとするもので、慣行を無視した法律でした。今回の改正で振込手数料の控除については、適格返還請求書の交付が不要になったことで、現状の実務から大きな変更がないことになり、非常に良い改正と思われます。

システム改修などが不要に

 インボイス制度導入に向けて、適格返還請求書の発行を行うために、販売管理システムなどのシステム改修準備が行われてきました。また、社内での適格返還請求書発行のための体制づくりも行われてきました。しかし今回の改正で、そのような対応の必然性がなくなってしまいました。

 コストをかけてシステムを改修した事業者、システムの改修の依頼を請けて仕様などを固めてきたシステム業者などからすると、複雑な思いが残る改正です。

もともと実効性が乏しい仕組み

 少額な値引きに適格返還請求書を要求する法律自体が、もともと無理がありました。仕入税額控除を受ける際はインボイスが必要、言い方を変えればインボイスが無ければ仕入税額控除が受けられないのなら、インボイスの交付を受けようという動機づけになります。

 一方で、適格返還請求書がないから仕入にかかる値引きを認識しない、という話になれば、その通りに処理すれば税負担は軽くなってしまいます。現実として、手数料分控除して振り込んでいるのに適格返還請求書がないから、控除しない額で税額控除を受けるという対応も考えられません。

 

 今回の改正は非常に重要な改正で、実務に即した改正と思います。一方で、最初からそのような配慮で立法していれば、システムの改修や現場でのルール作りなど、無駄な混乱が防げたという意味では微妙な思いが残ります。

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