税務最新情報

2022年12月01日号 (第452)

消費税の転嫁はできているのか?

 みなさん、こんにちは。税制改正大綱の公表が近づいているせいか、連日、税制改正の話題が豊富です。インボイス制度についても、激変緩和措置、中小企業向けの特例等複数の記事が見受けられますが、大綱が公表されるまで具体的な部分が分かりにくい状態です。

 とあるテレビ番組で、政治家同士の議論があり、「免税事業者は預かった消費税を懐に入れている」という意見と、「懐に入れているどころか転嫁できなくて困っている」という意見があったので分析してみます。

消費税法上の取り扱い

 消費税法上、消費税がかかる取引であれば取引金額の110分の10を消費税として考えます。例えば総額500円で販売していれば、500円×10÷110で、45円の消費税と計算します。総額550円で販売していれば、550×10÷110で、50円の消費税と計算します。

 つまり消費税法の計算上、総額での取引金額があれば、その中に一定割合の消費税が含まれているという仕組みになっています。消費税法の条文から考えると、総額500円で販売されていれば、45円の消費税が含まれていることになり、消費税を預かっているとの理屈は成り立ちます。預かった消費税を免税事業者が懐にいれているという政治家の主張は、ある意味正しいことになります。

現実的に転嫁できないケース

 一方で、消費税が導入される前も、平成元年に消費税率が3%で導入された後も、消費税率10%の現在も、ラーメンを500円で提供している店があった場合、消費税を転嫁できていると言えるでしょうか。

 消費税法の理屈からは、平成元年の消費税導入当初は500円×3÷103で、14円の消費税を預かり、現在は45円の消費税を預かっていることになります。消費税法は計算方法を定めているだけですから、総額のうちのいくらが消費税という計算は常に可能です。

 しかし、消費税を転嫁できているか否かという視点では、転嫁できていないというのが正しいです。税率の増加分が確実に上乗せできて初めて、転嫁できているという結論になります。

 請求書がやりとりされて振込で支払われるような、いわゆるBtoBであれば、転嫁はしやすいと思われます。一方で、小売店では従来から980円、1,980円、9,800円というような値付けが行われる傾向があります。また飲食店であれば、「ワンコイン」、「一食1,000円以内」で値付けを行うなど、取引価格が先に固定されている業種が存在します。

 つまり転嫁を行いやすい業態と、行いにくい業態があり、すべての業態で正しく転嫁できているかと言われれば、実際に転嫁できてないケースがあります。

消費税を預かっているのに納めていない問題

 消費税を預かっているのに、免税で納税していない状態になっているとの批判については、一部は正しい意見と言えます。

 税理士をやっていると、免税事業者の方が消費税を上乗せして請求しているケースは日常として目にします。しかし仕入の際に消費税を支払っていますし、経費においても消費税を支払っているので、販売した金額の消費税分が丸々、懐に入るという結論は間違いです。ただ、このあたりは免税点制度という消費税の制度の問題です。金額的な視点では、免税事業者の懐に残る金額と、簡易課税の益税とどちらが大きいかというと、簡易課税の益税の方が大きいというのが実務の数字です。

 

 結局のところ、免税事業者なのに消費税を上乗せしていると、政治家の方が批判したような具体的なケースもありますが、事実上転嫁していない、あるいは転嫁できない事業者がいるのも現実です。誰を見ているかによって見える世界が変わってきますし、すべての業態をひとくくりに話をすると議論がかみ合いません。

過去の記事一覧

ページの先頭へ