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2022年09月20日号 (第445)

雑所得の300万円基準について

 みなさんこんにちは。最近、国税庁から税金の未納があるからという督促メールを装った迷惑メールが流行っているようです。私自身にも届きましたし、複数のクライアントから「詐欺メールだと思うものの、気持ちが悪いので」といった確認の問い合わせが来ています。

 さて、8月1日に「所得税の基本通達の制定について」というパブリックコメントが公表され、ネット上で話題になっていますのでご紹介します。

パブリックコメントの内容

 公表された基本通達の案は下記のとおりです。

(業務に係る雑所得の例示)

35-2 次に掲げるような所得は、事業所得又は山林所得と認められるものを除き、業務に係る雑所得に該当する。

⑴~⑹ 省 略

⑺ 営利を目的として継続的に行う資産の譲渡から生ずる所得

⑻ 省 略

(注)事業所得と業務に係る雑所得の判定は、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定するのであるが、その所得がその者の主たる所得でなく、かつ、その所得に係る収入金額が300万円を超えない場合には、特に反証のない限り、業務に係る雑所得と取り扱って差し支えない。

 ちなみにパブリックコメント制度とは、意見公募手続のことです。法律は国会の決議を経て制定されますが、通達は国税庁で定めるので、新しい通達を定める際に一般に意見を公募する場合があります。通常は100件程度の意見が寄せられるそうですが、今回は4,000件以上の意見が寄せられました。この通達案に対する注目度が、非常に高いことが伺えます。

 今回の通達改正で意図しているのは、ネットなどで流布されている「副業で節税」というスキームの封じ込めです。簡単にいえば、給与所得のある人が、副業で赤字になった部分を損益通算して、所得税が還付されるという話です。税理士の感覚だと10年近く前に、コンサルタント会社が副業で損失したとの申告をサラリーマンにさせて、「不正還付事件」として逮捕された事例がありますから、とても危険なスキームと感じます。ところが、現在もツイッター上では、やらないと損するくらいの勢いの書き込みが後を絶たず、国税側が問題視したのでしょう。

改正されたらどうなるのか

 雑所得に該当する場合は、赤字となっても他の所得と通算できません。つまり、赤字を作って所得税を還付するというスキームが成り立たなくなります。

 しかし単純に300万円という線引は、例えば純金を300万円で仕入れて、300万円で売却すれば表面的には回避できます。過去に消費税の還付事例で、純金の売買を利用したケースなどがありましたから、金額的な線引は仕組みとしてはよろしくないと思います。

 私は税理士を開業して、最初の何年間は予備校の講師で生計を立てていたので、実際に事業を始めても給与より収入が少ない時期はありましたし、1~2年は売上が300万円に満たなかったような気がします。また高齢のクライアントで、昔は1,000万円以上あった売上が現在は200万円程度、という小売店も存在します。結局は、スタートアップ時点での赤字や、赤字でも店を閉めるよりはマシという理由で継続している場合など、いろいろなケースが考えられます。さらに、年度により売上の変動がありますから、金額基準での線引は実務になじまないような気もします。

 

 最終的にどのような形になるか不明ですが、租税回避手法によって、悪意のない納税者も不利になってしまう可能性があるという改正内容です。

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