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2022年05月20日号 (第433)

実務目線で見たインボイス制度の問題点3

 みなさん、こんにちは、国税庁がインボイスQ&Aを追加するなど、制度の導入に向けて、着々と準備を進めている様子です。

 今回も実務目線で見たインボイスの問題点についてご紹介していきます。

振込手数料相当の値引きについて

 国税庁は、4月28日にインボイス制度に係るQ&Aを改訂して、新たに5問が追加されています。その中で出精値引きに関する事例が加えられています。出精値引き自体は、最終的には端数分を丸めるなどの処理で利用されることが多く、請求書に記載されているものであり、それほど問題とはなりにくいと思います。むしろ、値引きの問題としては、代金から控除する振込手数料の取扱の事例が問題になりそうです。

 例えば、100,000円の請求に対して、振込手数料880円を控除して99,120円が振り込まれることが実務ではよくあります。現状の会計処理としては、支払手数料として費用処理したり、売上の値引として処理したりなど、いずれにしても税務調査の現場で問題とされることはありません。理論的には、振込をするという役務の提供を受けているのは振り込む側ですから、支払手数料というより値引の処理が本来なのでしょう。

 この場合に、理論的な処理をするのなら99,120円の入金と値引880円との記載になるはずですが、実務上は100,000円の入金処理としています。

 インボイス制度が導入された後は、振込された側は振込手数料の支払いをしているわけではありませんから、支払手数料としての処理はあり得なくなります。売上の値引処理をするとともに、「適格返還請求書」の交付をするか、次月の請求書を「適格請求書」と「適格返還請求書」の記載要件を満たした形で交付するかになります。

 また、支払いをする側も、今までは振込手数料分を含めて買掛金の支払いあるいは、経費の処理でしたが、買掛金の支払いは手数料控除後の数字で、振込手数料は別途処理することが必要になります。銀行の振込手数料はどのようにインボイスが発行されるのかも気になるところです。

 この対応については、会計知識があれば十分に対応可能な処理ですが、高齢の経理担当者、社長の奥さんが経理をやっている場合などには、ちょっと処理の難易度が増します。振込手数料部分について、売上値引でも支払手数料でも損益には影響がなく、重要性が乏しいのに、インボイス制度では細かな処理が要求されます。

 インボイス制度では、会計処理で伝統的とされる重要性の原則を破壊してしまうような性格を内在しています。

複数のインボイス

 インボイス制度で、インボイスは適格請求書のことを指します。国税庁の説明では、下記のとおりとしています。

適格請求書とは、「売手が、買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段」であり、一定の事項が記載された請求書や納品書その他これらに類する書類をいいます。

※ 請求書や納品書、領収書、レシート等、その書類の名称は問いません。

 要件を満たせば、請求書、納品書、領収書、それぞれが適格請求書に該当することになります。消費税法上、インボイスとして保存するのはどれなのかと聞かれることがありますが、消費税法上はどれか一つでも良いと思われますが、法人税、所得税の取扱で、結局全部を保存しておくことになるのだと思われます。

 しかし、時系列で見ると、納品書、請求書で消費税の端数について金額が異なり、請求書と領収書では、先に述べた振込手数料分についての金額が異なるなど事例が考えられます。そのような場合には、最終的な決済金額と一致するものだけが正しいインボイスと考えられます。インボイス制度では、適格返還請求書などを利用して決済金額と一致していないと、インボイスとして完結しないことになります。

 ただ、この辺りも、税額計算が正しく行われていた場合に、どの程度問題になるかは未知数です。実務上、完璧なインボイスの保存がどこまで必須となるのか、始まってみないとわかりません。

 厳格すぎるルールは、かえって混乱を招く傾向があります。

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