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2022年05月10日号 (第432)
実務目線で見たインボイス制度の問題点2
みなさん、こんにちは、ゴールデンウイークが終わってしまいました。今年は、帰省した人も多く、人流が過去2年に比べて多かったとのことです。これで、コロナの感染者が増えなければ、一息ついた状態なのでしょうか。
さて、今回もインボイス制度について実務目線での問題点についてご紹介していきます。少し細かい論点になりますが、混乱が起きそうな部分です。
30,000円基準がなくなる
現在、原則課税を適用している事業者であれば、インボイス制度が導入されても、実質何も変わらないのではないかとの問い合わせがあります。現在、仕入税額控除の要件は、請求書の保存及び帳簿へ記載が要件となっています。インボイス制度導入後は、請求書の保存がインボイスの保存に置き換わるだけなので、変化はないとの思い込みです。
現在は、政令49条1項で、3万円未満の課税仕入については、帳簿の記載のみで請求書を保存していない場合でも、仕入税額控除が認められています。普段、気にされていないケースが多いようですが、請求書等がない場合でも、この3万円基準で救済されているケースが実務では多くあります。
具体的な例としては、クレジットカードを利用した場合などが典型的です。カード会社から一定期間ごとに請求明細書が交付されていますが、この請求明細書は請求書等に該当しないというのが国税庁の見解です。下記を御覧ください。
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/18/05.htm
現在は、政令の規定があるので、クレジットカード利用で請求書等がない場合でも、実務的には仕入税額控除の問題が表面化していないだけの状態です。ところが、インボイス制度が導入された場合は、この政令の取扱がなくなるので、3万円未満の場合でもインボイスの保存が必要になります。
例えば、ETCの利用の場合は、クレジットカードの請求明細書で経費処理しているのが一般的ではないでしょうか。もっともETCについては、何らかの形でインボイスの要件を満たすものが発行されると思います。それ以外にもクレジットカード利用で、ソフトの利用料や通信費など、数十円、数百円というような取引が多くあります。これらも、すべてインボイスが必要になります。電磁的な記録でインボイスが交付されることになるケースが多いと思いますが、数十円の取引でインボイス発行するためのシステムの導入などを考慮すると、そのような少額決済の取引が市場から消えてしまう可能性があります。
固定資産税や自動車税の調整金
不動産の売買をする際に、固定資産税の調整額が精算されることが実務では一般的です。また、中古車の売買をする場合にも、自動車税の精算を行うケースが一般的です。当事者間は税金の精算との認識があるので、税金にさらに消費税という発想はあまりないと思います。
ところが、この調整金については、消費税法上は固定資産税の精算ではなく、売上代金の一部として取り扱われています。
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/02/33.htm
インボイス制度が導入された場合は、固定資産税の調整金についても登録事業者はインボイスの発行が必要となります。その際には、固定資産税の調整金であれば、土地部分と建物部分が含まれて、土地部分は非課税、建物部分は課税取引となるので、建物部分に対する部分がインボイスの対象となります。
このような、長く続いている取引慣行にどのような影響を与えるのでしょうか。インボイス制度については、細かな点で予測不能な部分があります。果たして、実務に定着するのでしょうか。
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