税務最新情報

2020年06月10日号 (第363)

欠損金の繰戻しによる還付の特例

 みなさん、こんにちは、緊急事態宣言が解除されましたが、事業者の苦難はこれからも続きます。十分に気持ちを引き締めて頑張っていきましょう。

 積極的に動いている会社では、助成金と融資制度で、短期的な資金繰りはそれなりに目処がついているケースが多いようですが、営業的に元の状態に戻るのはもう少し時間がかかりそうです。今回は、欠損金の繰戻しによる還付制度についてご紹介していきます。

大法人でも欠損金の繰戻し還付制度が利用可能に

 コロナの特例で、従来は中小企業者等が利用可能だった青色欠損金の繰戻し還付制度について、利用できる法人の範囲を拡大して、資本金の額が1億円超10億円以下の法人も利用することが可能になりました。この特例は、令和2年2月1日から令和4年1月31日までの間に終了する事業年度に生じた欠損金額について適用されます。

 ただし、資本金の額が10億円を超える法人など大規模法人の100%子会社及び100%グループ内の複数の大規模法人に発行済株式の全部を保有されている法人は除外されています。

 個人的には、適用できるのかなと思ったところ、上場会社の100%子法人等は、結局、適用できないということで、意外と対象法人は少ないように感じます。ただ、今回のコロナ禍では、規模の大きい会社のほうが、固定費の額に連動して大きな赤字となっている傾向があるので、対象となる会社は検討するべきです。

◆欠損金の繰戻し還付とは

 欠損金の繰戻し還付とは、今年の決算で赤字が生じ、昨年の決算では黒字で納税している場合に、昨年の黒字と今年の赤字を通算した上で、昨年の法人税を計算し直して、還付を行うという制度です。去年の黒字より、今年の赤字が大きければ昨年納付した法人税の全額が還付されるということで、短期的な資金繰りが苦しい場合には、キャッシュが増加するので魅力的な制度です。

 中小企業等では、従来から利用可能な制度ですが、前年が黒字で納税で、今期が赤字でという場面でしか利用できませんし、前年が黒字でもわずかな納税額であれば、還付される額もわずかなので、積極的には利用されていない制度でした。

 同じような趣旨の制度として、青色欠損金の繰越という制度があります。今年の赤字を来年以降の黒字と相殺できる仕組みです。内容的には、今年の赤字を、前年の黒字と相殺するか、来年以降の黒字と相殺するかなので、長期的には有利不利はありません。

 ただし、法人税法の80条で、「還付請求書の提出があった場合には、その請求の基礎となった欠損金額その他必要な事項について調査し、その調査したところにより、その請求をした内国法人に対し、その請求に係る金額を限度として法人税を還付し、又は請求の理由がない旨を書面により通知する」というような規定ぶりになっていて、繰戻し還付を行うと税務調査になるのでは、という危惧から敬遠されている雰囲気があります。もっとも、この条文での調査は、実地調査とはしておらず税務署内部で調査を含むので、実務的には税務調査に来ないまま還付されることの方が一般的です。

◆繰越欠損金制度との比較で敢えて繰戻し還付制度を選ぶべきとき

 今年の赤字と前年の黒字を相殺する繰戻し還付制度、今年の赤字と来年以降の黒字を相殺する繰越欠損金制度、長期的には同じ効果があるのですが、どのように使い分けすべきかを検討すると以下のようになります。

① 少しでも現金が必要な場合は、繰戻し還付となります。青色欠損金は、来年以降支払う税金を減らす効果はありますが、繰戻し還付は、現金が入金されるというメリットがあります。

② 中小企業などで、よくみかけるのですが、廃業する場合、将来の黒字が見込めない場合などは、将来の黒字と相殺できる目処が立ちません。この場合は、繰戻し還付を選択することになります。

 逆に、上記のような理由がない場合は、繰越欠損金制度を利用していくことが一般的のように思います。

記事提供
メールでのお問い合わせの際は、必ず住所、氏名、電話番号を明記してください。

過去の記事一覧

ページの先頭へ