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2020年05月11日号 (第360)

新型コロナの影響で廃業を検討する場合

 みなさん、こんにちは、緊急事態宣言が5月末まで、延長されることになりました。3月末決算をみていると、それなりに利益がでている会社もあるものの、それが4月には休業になったりと、本当に悪い結果が出てくるのは、これからという雰囲気です。製造業なども、受注で仕事をしているので、3月までは普通だったけれど、4月になって、ぱたっと仕事が減ったなどという話が聞こえてきます。今回は、廃業した場合について検討してみます。

継続か廃業か

 新型コロナウイルスの影響で、自粛要請がある業種は、営業そのものができないので、売上がゼロに近い状況です。ところが、お客さんとの会話では自粛要請がでていない業種についても、売上激減の業種が多くあります。

 最近、お客さんから連絡があるのは、融資の相談と助成金の相談ばかりです。助成金は、要件を満たして受給できるのなら当然受けるべきなのですが、問題は融資です。

 60代以降の経営者で、後継者がいない場合には、融資を受けるのもあるかもしれませんが、廃業も検討してくださいという話をしています。金融機関は、好条件で融資に応じてくれますが、返済に10年かかることを考えると、今まで良い状態だった会社こそ、勇気ある撤退も一つの選択肢になります。

 経営者が50代半ば以下の場合は、廃業しても、その後を考えると、会社継続を優先的に考えざるを得ません。平時より融資が受けやすいので、中長期の視点でじっくりと経営方針を考え直す必要があります。

◆借金が完済できる場合

 会社を廃業しても、借金を全部返済して、お金が残るようなら、残余の資金については、役員退職金として支給することが可能です。役員退職金については、税負担が非常に軽く、どれほど高額な退職金を受け取ったとしても、上限で23%程度に収まります。なぜなら、退職所得は、控除額を引いて、2分の1に対して所得税を計算するので、所得税と住民税の最高税率の半分が上限の税率になるからです。なお、勤続年数により退職所得控除があるので、税額がまったく生じないケースもでてきます。

 また、元々、資本金として払い込んでいた金額については、無税で取り戻せます。例えば、資本金1,000万円で、経営者が1,000万円払込んでいた場合は、その部分については、会社を解散して払戻しされても、もともと自分が払込んでいた部分として、課税関係が生じません。

 さらに、中小企業では、役員が会社に対して、運転資金を貸しているケースがあります。会社に貸している資金の返済についても、当然税金はかかりませんから、取り戻すことができる状態なら、まるまる戻ってくることになります。

 ちなみに、役員退職金を十分に支払い、さらに資金が資本金以上に残っている場合は、株主に残余財産として分配されることになります。この場合は、みなし配当として課税されます。ただし、この場合の税率は累進税率が適用なので、金額に応じて高くなっていきます。

◆借金が残る場合

 中小企業で、仕事をやめてしまうと借金が払えないから継続しているというケースがあります。例えば年間売上の50%程度の借金があるようなケースです。利息だけなら、払い続けることができる程度の微妙な状態はありがちです。貸し剥がしに遭遇しなければ、なんとか継続できてしまう、けれども会社の全資産を処分しても元本返済の目処が立たないというケースです。

 困るのが自宅が担保に入っていて、廃業すると住む家がなくなるような場合です。このような場合は、弁護士さんとよく相談して方向性を決めてくださいという話になります。住む場所を確保しようと思うと、長期間にわたる返済の継続が必要になるでしょう。一方で返済の継続が見込めない場合は、着地点が見えなくなります。

 逆に救済されるケースとしては、経営状態が悪くないときに、配偶者へ居住用不動産の贈与を利用して自宅が担保にとられていない場合や、子供と同居することで住む家が確保できるような場合です。多少の不自由は生じますが、自己破産することで解決できるかもしれません。

 

 今回の新型コロナの影響で、絶対に避けるべきは、追加の借金をして、借金の額が返済の目処がつかない額になってしまうことです。苦しくても、勇気ある撤退が、最善の選択肢の可能性があります。

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