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2019年10月01日号 (第349)

役員報酬の設定方法について考える

 みなさん、こんにちは、消費税の税率が上がりました。軽減税率に対する問題点の報道も多いですが、このままでよいのでしょうか。ちなみに、消費税が導入された平成元年月当初は住宅の家賃は課税だったのが、平成年の10月から非課税へと変更になりました。軽減税率については廃止すべき方向へ議論が盛り上がることを期待します。

 さて、今回は役員報酬の設定方法について検討してみます。

役員報酬と利益との関係

 ほとんどの中小企業は、同族会社で社長自らが自分の役員報酬を決定しています。現在の法人税法の取扱いでは、定期同額給与が損金として処理するための要件となっていますので、定時株主総会で役員報酬を決定した後は、決算日まで役員報酬額を変更しないことが一般的です。

 多くの中小企業では年間の取引高についてはある程度の予測ができるので、利益を確実に出すために役員報酬を控えめに設定する場合があります。一方で、会社に内部留保しないで稼いだ分は経営者の懐に入るように、多少赤字になる前提で役員報酬を高めに設定する場合もあります。

 実際には、想定外に売上が伸びる場合もあれば、減少する場合もあるので、必ずしも予想通りになるとは限らないのですが、ある程度会社の利益の着地点を想定して、役員報酬を設定することが一般的です。

 ここで、経営者の個性が出るのは、常に黒字を目標にされる方と、多少赤字が出ても法人税を負担しない方向で考える方です。会社の成長を考えれば常に黒字が目標となります。一方で、中小企業では生活が安定してできれば良いと考える経営者も多く、そのような場合は稼いだ部分は個人で貯蓄できるようにと意識します。結局のところ、最終的に会社を大きくしたいか否かによって、役員報酬の設定の仕方が変わってきます。

◆税負担での比較

 中小企業の場合の実効税率は29%弱と言われています。一方で、個人の所得税は累進税率なので、比較が難しいのですが、役員報酬900万円程度で扶養家族なしだと、平均化した所得税と住民税を合わせた税率が18.5%程度ですが、それを超える部分に適用される所得税と住民税を合わせた税率は、約30%です。

 つまり役員報酬900万円の人が、役員報酬を増加させることで法人税の負担を軽くした場合は、役員報酬の増額に対して負担する所得税と住民税の方が、節約できる法人税より上回るという計算になります。言い方を替えれば、個人・法人全体で考えるなら、役員報酬を増額して所得税の負担をするより、法人税を負担していく方がトータルの出費は少なくなる計算になります。

 この話をすることで、法人税を負担するくらいなら役員報酬を高くしたいと考えていた経営者が、会社で税金を払った方がトータルで負担が軽くなるなら、会社で利益を出すように発想が変わる場合があります。

◆結論としてどのように役員報酬を設定するのか

 純粋に個人と会社合算して負担を軽くしようと考えると、方程式のような計算が可能ですが、実際には、下記のような点が実務的な判断基準となります。

 前提が900万円以上役員報酬を払えて黒字になれる場合ですが、経営者の方が生活費として900万円で十分か否かという点が問題になります。具体的には、住宅ローンも返済していて、子供が私立の大学に通っているという環境だと、役員報酬900万円(手取り660万円程度)では生活に余裕がないかもしれません。トータルで税負担が安いからといって、役員報酬を900万円に抑えても、それで生活費が不足するのなら本末転倒です。会社にお金が潤沢にあったとしても個人的に使うことはできないからです。会社から、個人にお金を移動させようと思うと、配当することになりますが、結局ここで所得税がかかります。それなら、最初から税負担が重くても、役員報酬を必要な額に設定することの方が有効です。

 一方で、会社で将来的な設備投資で資金が必要な場合は、会社で利益を計上して税金を払ったのちの資金を内部留保して会社のお金を増やすことが必要です。この場合に、所得税の負担の方が高いにもかかわらず、高額な役員報酬を設定することは不合理になってしまいます。

 理想的には、有利不利の分岐点の900万円以上の役員報酬を取ることが可能なら、個人に必要な資金を役員報酬として支払い、それ以外の部分を会社として積み上げていきたいものです。

 現実的な話、役員報酬を高くしたくても、月に20万円しか取れないというケースもありがちで、そのような場合は役員報酬をどうするかよりも、どうやって儲けるかが課題であり、中小企業の大部分はこちらが悩みなのではないでしょうか。

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