税務最新情報

2019年09月20日号 (第348)

泉佐野市とふるさと納税から租税法律主義を考える

 みなさん、こんちは、消費税増税まで、10日です。今頃になって、軽減税率に対して問題が沸き上がっているようですが、本当は立法の段階で、正しい情報を国民に知らせて、選挙を通じて法制化していくべきなのかなと思います。諸外国では、ほぼ失敗している税制で、主税局としては導入したくなかったのだろうなと思いますが、法律の立法機関である国会で決議してしまったのだから、実務としては受け入れるしかありません。マクドナルド、すき家、サイゼリヤなどは、税抜金額を調整して、税込み価格をテイクアウトと店内飲食で統一すると報道されています。でも、それって、テイクアウトの食品、軽減されないということですよね?なんか、割り切れません。こんな疑問を多くの人にもってもらって、税法について多くの人が議論してほしいなと感じます。

 そして、今回は、泉佐野市のふるさと納税の話題です。

総務省が泉佐野市に完敗

 豪華な返礼品と返礼率を売りにして、寄付金を奪い合うという自治体による競争が激化していたことを受けて、今年3月の地方税改正で、今年の6月以降について、ふるさと納税の控除対象となる自治体を限定することとしました。改正では、還元率が3割を超えるか、地場産品でないものを返礼品とすると、6月以降寄付控除の対象から除外するというものでした。

 ところが泉佐野市は、5月まで返礼率5割を継続して、「閉店キャンペーン」と称して大々的に宣伝していました。これに対して、総務省は泉佐野市は6月以降ふるさと納税の対象としないとして除外しようとしました。

 さて、泉佐野市の行動は、無謀な行動だったのでしょうか。今年の3月の改正で、6月以降の施行というのが法律です。法律上は、問題ないのでは?との疑問があります。結論としては「国地方係争処理委員会」は、9月2日に総務省に除外を見直すように勧告しました。その根拠は、「通知への違反を除外理由にしたことは、法に違反する恐れがある」とのことでした。

 ふるさと納税が過熱する中で、それを抑制するために総務省は平成27年から毎年自治体への通知を出し続けて、平成30年に至っては、4月と9月に通知を出していました。9月の通知の中では「過度な返礼品を送付し、制度の趣旨を歪めているような団体については、ふるさと納税の対象外にすることもできるよう、制度の見直しを検討することといたしました。」との内容でした。泉佐野市は、極端な話、通知を無視し続けてきたわけですが、法律が施行されたのは6月から、つまり法律違反はしていないとの判断です。

◆租税法律主義

 大学で租税法の勉強をすると最初に登場するのが租税法律主義という言葉です。税金は、簡単に言えば私人の財産を取り上げる性格のものですから、その取扱いにあたっては、法律に従い厳格に行う必要があるというものです。実際に憲法84条で、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と定められています。

 例えば、泉佐野市がふるさと納税から除外されるとすると、そこへ寄付した人が寄付金控除を受けられないことになります。つまり、寄付した人が税法上の不利益を受けるわけですから、法律の根拠が必要ということです。

 通知や通達という言葉があります。今回の総務省の通知は、地方分権化により指揮監督権がないものからの地方自治体への文書になります。また、税法では通達という言葉がよくでてきますが、通達は行政機関において上級行政機関から下級行政機関と職員に対する指揮命令です。国税庁が公表している通達は、厳密にはその下級行政機関である国税局や税務署と税務署員に対する指揮命令という位置づけです。

 実務を行う上では、公表されている通達を参考にすることで、問題が起こりにくくなり、トラブルを回避するという意味で非常に有効です。租税法では、租税法律主義を大前提としますが、通常の実務では租税通達主義と言ってよいくらい通達を意識しながら仕事をします。通達は、国会で定めるものではなく、納税者からすれば強制力が及ぶものではありませんが、法律の解釈や確認的内容が通達になっており通達を参考にすることはある意味有用です。

 通達と異なる処理を行った場合に必ずしも認められないかというと、そのようなことはありません。通達はそもそも納税者への強制力がないものですし、訴訟などになれば、租税法律主義の考え方からは、通達自体は参考程度の意味しか持ちません。

 税法の勉強で一番最初にする租税法律主義は、実務をしているとあまり問題となりません。そもそも、税務署側が法律違反をすることなど、ほとんどないので、そのような議論にすらなりません。その意味では、今回の泉佐野市の件は、善悪的な感情論と租税法律主義が関係する面白い事例でした。素朴に、法律的にどうなの?と疑問を持つことは大切です。

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