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2015年12月10日号 (第279)

事業承継について(3)

 みなさん、こんにちは、今年も残すところ、僅かです。平成28年度税制改正大綱が公表されるシーズンとなりました。税制改正の内容については、1月以降にご紹介していきます。
 さて、今回は、事業承継の話題の3回目となります。内容的には、事業承継対策を行った結果が裏目に出るという失敗事例についてご紹介していきます。

株式の分散化

 同族会社の株式の評価は、原則的な評価の場合と少数株主にとっての配当還元方式による評価の場合とで、評価額に大きな差が生じます。具体的には、原則的な評価であれば一株200万円、それに対して配当還元方式を用いると一株2万5千円と評価されるような 場合があります。そこで、生前に配当還元方式による評価が適用される人に贈与して、代表者自身の持つ財産額を減らすという方法があります。持ち株比率が5%未満となる状態の、役員でない従業員、いとこ、甥や姪、孫の配偶者などへの贈与であれば、原則的な評価なら一株200万円の株式を、配当還元方式による評価で一株2万5千円の評価で贈与することが可能となる場合があります。この部分の判定は、難しくなるので、税理士などにご相談されるとよいかと思います。
 あるいは、もっと単純に、年間の贈与税の非課税枠、あるいは税率が低い範囲で、子や孫に株式を贈与するなどの方法を用いる場合もあるかもしれません。
 いずれの場合でも、代表者の株式を分散させることで、相続税の負担は軽くなりますので、相続税という視点だけで見ると良い結果をもたらします。しかし、分散した株式を買い集める必要が生じた場合には、時価での買い取りに応ずる必要があり、長期的には、節税できた金額以上の負担が生じる可能性があります。また、それ以外にも、帳簿の閲覧請求、株主総会の招集請求、総会検査役の選任請求など、少数株主の権利を行使されることで、煩わしい対応が必要になる可能性もあります。
 株式の分散は、相続税対策としてはメリットがあるかもしれませんが、その後にトラブルをもたらす可能性があるので、一長一短と考える必要があります。個人的には、株式は分散しない方がよいと思っています。税金を安くするよりもリスクをなくすことの方が大切です。

早すぎる対策

 事業承継の失敗事例として、早すぎた対策というケースがよくあります。例えば、長男に事業承継することを決め、長男に大部分の株式を移動させた後に、長男が事業を承継しないなどの事例です。この場合でも、長男が株式を新たな後継者へ移動することに抵抗を示さなければ問題ないのですが、株式の移動に応じないとか、会社にとって好ましくない形で株主権の行使を行うと中小企業にとっては、大きな問題が生じます。
 それ以外で、典型的なのが、娘婿を後継者と定めて株式を移動していったところ離婚してしまったなどというケースです。娘婿がその後も会社をしっかりと経営してくれるのであれば、会社として実害はないのかもしれませんが、感情面、株式を贈与した経営者の老後の問題、娘の生活費など、いろいろと難しい問題が生じます。
後継者が決まったとしても、経営者が現役でいる期間は、株式を移動していくタイミングは慎重に決める必要があります。

 

順番が変わってしまうケース

 後継者が決まり、株式を移動してしまった後に、後継者が先に亡くなってしまうケースがあります。想定外のことなので、避けられないことなのかもしれませんが、いろいろと難しい側面があります。
 例えば、経営者が自分の相続対策は十分にしていても、後継者の相続対策をしておらず、大きな相続税負担となるなどの事態が生じます。親から子へ贈与税を負担しつつ、長期間かけて株式を移動したのに、子から親への相続で、さらに税負担が発生するというのも、気持ち的にはやりきれなさが残ります。
 親に株式が戻ってくるのであれば、まだ良い方で、後継者に配偶者と子供がいると、相続財産を取得するのは、後継者の配偶者と子供ということになります。後継者の配偶者との関係が良好であれば、何ら問題が生じませんが、場合によっては、配偶者の一族が会社の経営に入り込み、経営者が解任されてしまうなど、思いがけない事態が発生する可能性も考えられます。
 いずれにしても、事業承継の対策のつもりが、悪い結果に結びつくことも、実務の世界ではよくある話です。物事がすべて予定通りに進むということは、まれであり、必要な時点で必要な部分について対策を行うという考え方が重要です。何もしないことが一番の対策ということもありますので、事業承継対策は慎重に判断すべきです。

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