税務最新情報

2015年11月10日号 (第276)

事業承継について(1)

 みなさん、こんにちは、税理士がお客さんのところで、一番多くする話題は、何だと思われますか。税金の話題より、経営に関しての話題がダントツで多いよう思います。財務分析から問題点が見えるという点と、多くの事例を見てきているので、マーケティングの手法などについては基本的なお話もできます。もっとも、深く踏み込んでの調査をするわけではない点、通常より業績が良い会社をさらに良くするためのコンサルなどは難しく、限界があるのも事実です。それ以外にも、製造業や建設業などの売上増加などは、一般論が通用しないので難しいと感じます。
 さて、今回から数回に分けて、事業承継について、ご紹介していきます。前回書いたように、相続税の基礎控除が小さくなったことの影響もあり、注目度が高い話題です。

事業承継の出口戦略

 事業承継というと、相続税のことを連想されるかもしれませんが、現状では後継者がいないことの問題の方が事例としては数が多いようです。
 事業がイマイチで、将来性も乏しく、後継者がいない場合は廃業を検討するということになります。廃業は、一見簡単そうにみえますが、意外と難しい部分があります。事業資金を会社が借りている場合には、返済を続けるためには事業を継続する必要があるとか、働ける間は少しでも収入が継続するほうがよいとか、計画的に事業規模を縮小というのも現実的には思い通りにいかないなどです。つまり、事業を承継しない場合でも、計画と対策は必要になるということになります。
 事業がうまくいっている場合で、後継者がいない場合は、時間があるようであれば後継者を探す・育てるということになります。一方で、時間がない場合などは、M&Aなどの検討も必要です。中小企業にはM&Aは無関係と思っている経営者も多いようですが、思いの外M&Aがマッチする場合もあります。
 理想的なパターンは事業が順調で、株式の評価額も高いというケースです。このような場合に、経営者の相続人が事業を承継しないのに株式を相続する形よりも、相続前にM&Aで換金してしまうのが有効です。M&Aで株式を譲渡した場合は、利益に対して概ね20%の課税ですから、税負担としては重くなく、事業用の不動産・人材などを含めた事業をキャッシュに換えるという出口戦略です。
 事業を、それなりにまとまったキャッシュに換えることができるのは、かなりハッピーな方で、多くの中小企業のM&Aでは、非常に安価に株式を譲るということも検討する必要があります。もともと、株式の評価額が高くない場合には、当然に高い金額で買い取ってもらうことはできないでしょう。しかし、事業に魅力がある場合や、特殊な技術を持つ会社の場合には、M&Aに応じてもよいという会社が現れる可能性があります。株式を安価に譲ってメリットがあるのかと疑問に思われるかもしれませんが、従業員の雇用を守る、会社の持つ技術を次世代に承継させること、会社そのものが存続することなど、それなりの効果は期待できます。

後継者が決まっている場合の基本戦略

 後継者が決まっている場合の事業承継は、株式を、どんなタイミングで、どのように後継者へ移転させるかを検討する必要があります。
 親から子への事業承継であれば、株式が低い時に贈与を行うなど、事業承継と相続税対策を一度に行うことが可能ですし、基本的な戦略と位置づけられます。
 一方で、後継者が子でない場合などは、株式を贈与するというケースは少なく、適正な金額で買い取ってもらうという方向になりがちです。この場合に、株式の評価が高すぎて、後継者がとても買い取れないような場合は、会社に自己株式として買い取ってもらい、純資産額を圧縮した上で、後継者に株式を買い取ってもらうなどの準備が必要になります。
 また、相続税の負担が重い場合には、事業承継税制の適用についての検討も必要となります。
 事業承継というと、税金対策というイメージが強いかもしれませんが、その前に、方向性というか全体像を考えてみることがより重要となります。

 

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