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2014年12月01日号 (第243)

行為計算否認に対する解釈が変わる可能性

 みなさん、こんにちは、消費税率の引上げが1年半先延ばしとなり、2017年4月から10%に、そして軽減税率も同時に導入するような雰囲気です。
 消費税率引上げに向けて、いろいろと準備をされていた法人もありますが、予定変更となります。ちなみに国税庁も10月31日に税率引上げに向けて経過措置通達を公表済みだったのですが空振りになってしまいました。例年は12月中旬に公表される税制改正大綱も1月中旬に先送りとなります。そして、消費税率の引上げを見込んでいた国の予算はどうなるのでしょう、公共投資などへの影響が気になるところです。また、お客さんとの会話では、選挙が行われると売上が下がる傾向ということで、何か工夫が必要という状況です。
 さて、今回は、11月5日のヤフー事件の高裁判決を受けて、行為計算否認という考え方について、ご紹介していきます。

行為計算否認とは

 行為計算否認という言葉を初めて聞くと意味不明ですが、税法では、重要なテーマの一つとされています。例えば、下記のような事例について、どのように感じられますか。

都内の一等地に親から相続した貸しビルがあり、多額の収入があり、所得税が最高税率で課税されている状態が前提です。
そこで、妻と子供を役員として不動産管理会社を設立し、賃料の60%を不動産管理会社に支払う契約を結び、妻と子供は不動産管理会社から役員報酬をとることにします。

本来は、貸しビルの初留社の所得となるべき金額が、妻と子供に分散されることで、累進税率である所得税を随分と抑えられるかもしれない。

 当事者間がどのような契約を結んでも契約自由の原則から、国家は干渉することができないと民法では学習します。契約自由の原則という考え方からすれば、賃料の60%を不動産管理料として支払うという契約自体は問題がないことになります。
 一方で、税法の立場では、賃料の60%の不動産管理料は異常であり、妻と子供が役員をしている会社が相手だからこそ、異常な契約を結んだに過ぎないと判断します。この場合に、税負担が不当に減少しているとして、そのような「行為又は計算」を否認できるという取扱いがあります。
 もっとも、まったくの他人間の取引にまで行為計算否認が適用される事は問題ですから、法人税法では、下記の三つの場面に限定して規定をおいています。

法人税法132条 同族会社等の行為又は計算の否認
法人税法132条の2 組織再編性に係る為又は生産の否認
法人税法132条の3 連結法人に係る行為又は計算の否認

 行為計算否認については、上記のように限定した規定ぶりですが、まったくの無関係の者同士の取引なら、明らかに異常な取引であっても問題にならないのかというと、寄附金の認定や贈与の認定という別の形での対策がなされています。寄附金や贈与の認定については、別の機会にご紹介します。

行為計算否認の射程が変わる可能性

 行為計算否認は、私法上の契約を否認して、課税を行うというものですから、慎重な運用がなされるべきとされています。納税者の立場からすると、身内との取引は常に否認される可能性があるということでは、同族会社は常に否認のリスクを気にしておくという非現実的な状況になってしまいます。
 そこで、行為計算の否認が行われるのは、異常な取引について、「租税回避以外に正当な理由がない場合にのみ適用」されると、学説でも,裁判上も取り扱われてきたという長い歴史があります。
 ところが、ヤフー事件の判決を受けて、その取扱いに変化が生じる可能性があります。今年の3月18日の地裁判決、11月5日の高裁判決では、租税回避以外の目的があったか否かではなく、結果として法人税負担の不当な減少があったという、結果に基づいた判決がなされているからです。
 なお、ヤフー事件が、現時点では高裁判決がでた段階で、最高裁がどのような結果になるかは明かではありません。また、IBM事件では、今年の5月9日の地裁判決で、同じ行為計算否認に関して国側が敗訴しています。こちらについても、今後、高裁でどのような結果となるのかが注目されています。
 この二つの判決次第では、行為計算否認について、税法の教科書の内容が大きく変わるかもしれないというくらい影響力がある内容です。

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