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2014年05月12日号 (第223)

事業承継に関する相続税対策

 平成27年から相続税の基礎控除が小さくなるため、相続税がかかる相続が増加します。最近は、相続税の試算についての依頼が増えてきています。今回は、事業を行っている場合の相続税対策について、ご紹介していきます。

事業承継税制の活用

 ある程度の規模の会社で、内部留保も大きい会社の場合は、相続人が保有していた株式の評価が高く、事業を承継する相続人にとって、相続税が非常に重い負担になる可能性があります。そのような会社で、最低でも5年以上は事業を続けられることが確実に見込めるような場合には、事業承継税制の活用を検討することが最初にすべきことです。詳しくは、下記をご覧ください。

http://www.tohoren.or.jp/zenkoku/index.asp?patten_cd=12&page_no=563
http://www.tohoren.or.jp/zenkoku/index.asp?patten_cd=12&page_no=568

 要件を満たすか否か、手続が煩雑なこと、打ち切りになった場合などのリスクについても検討することが必要ですが、うまく適用できれば、株式の評価額の80%部分に対する相続税額が納税猶予され、免除される可能性があります。
 もっとも中小企業者を対象としているので、大規模な会社は適用外であったり、逆に規模が小さすぎるとメリットが薄かったりと、思いの外ストライクゾーンが狭いという側面があり、なかなか利用に至らないケースが多いようです。

暦年の贈与制度を利用

 毎年、株式の評価を行い、ある程度の贈与税を納めつつ、長期間にわたって株式を贈与しているケースはよく見聞きします。本人が、贈与税の申告をして納税していくと言うことは、本人に受贈の意識があることの裏付けになりますし、申告書を提出しておくことで贈与の事実を残しておけます。仮に10%の贈与税を負担したとしても、相続税で20%以上の税率となることが見込める場合には、株式の評価額が極端に低くなるなどの不測の事態がおこらない限りは、確実な節税手法と考えられます。
 贈与税の負担がもったいないからということで、年間の贈与税の非課税枠の中で、贈与を繰り返し、法人税の申告の際に別表2の数字だけを動かしているようなケースも見受けられます。相続税の税務調査の現場では、名義預金がしばしば問題になりますが、名義預金と同じように、実際に贈与があったのか否かという部分から課税当局と見解が別れるリスクなどもあります。暦年の贈与制度を活用するのであれば、ある程度の贈与税の負担はリスク回避の上で不可欠です。そして、平成27年からは、直系尊属からの贈与税について、優遇されることになるので、相続税として予測される税率よりも贈与税率が低いのであれば、確実な節税に繋がります。地味ですが、基本的な節税対策と考えられます。
 なお、相続時精算課税は、贈与時に課税はされなくても、相続税の申告を行う時点で、相続財産の計算に、贈与財産が組み込まれることになるので、相続税が課税されることが予測される場合の節税対策にはならないので、注意が必要です。

成り行きに合わせての対策

 相続税の対策は重要ですが、想定外のことが起こってしまうと言う落とし穴があります。例えば、贈与税を支払いつつ相続対策をしていたところ、会社が立ちゆかなくなってしまって、結果として余分な税金となってしまうとか、後継者に株式を移転させてしまったところ、後継者が死亡してしまい相続税が多額に発生するなど、不測の事態が起こりえます。また、事業承継とは別な話で、相続対策で借入をしたら、借金だけが残ってしまったというような話しは、ありがちです。大きく動く対策には、それなりのリスクが生じます。
 そこで、敢えて成り行きに合わせて対策を行うというのも、一つの方法です。例えば、会社の業績が下がり株式の評価が下がったところで、後継者へ株式を一気に贈与してしまうなどという手法です。
 それ以外にも、自分が引退する際に役員退職金を多額に受け取るような場合は、退職金の支払により株式の評価が下がることが予測されます。その際に、株式を贈与してしまうというのも、よく利用される方法です。この場合は、代表者交代に伴って株式が移動するという点でも自然な流れです。
 また、会社に資金が潤沢にあるようならば、後継者に株式を移動するのではなく、会社に株式を買い取って貰うなどの方法も考えられます。例えば、後継者が20%の議決権を有し、父が80%の議決権を有していた場合に、父が全ての株式について会社に買い取って貰えば、自動的に全ての議決権を子が持つことになります。また、会社が、一度に株式を買い取れないような場合に、毎年少しずつ買い取っていくなどの手法も考えられます。
 事業承継対策は長期にわたって行うので、いろいろなやり方があります。個人的には、事業承継に関する相続税対策は、決め打ちで対策をするのではなく、いくつかの手法を用意しておき、成り行きに合わせて、複数の手法を組み合わせて、自然な形で行うのが好みです。

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