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2013年03月11日号 (第183)

改正前と改正後の事業承継税制の要件(相続税編)

 みなさん、こんにちは、税理士の飯田聡一郎です。最近、お客さんのところで景気がよくなっているような話しを、よく耳にします。株価も好調なようです。しばらく、停滞気味の経済でしたが、本当に上向いてくれるとよいなと感じます。
 さて、今回は、事業承継税制の最終回です。前回は、贈与税の納税猶予制度を受ける場合の要件をご説明しました。今回は、相続税の納税猶予制度の要件を説明します。従来の納税猶予制度は、事前の準備が必要な完全な事前対策税制でしたが、平成25年度改正により平成27年からは事後対策としても活用できるようになりました。

◆相続税の納税猶予制度が事後でもokに!

 従来の納税猶予制度は、事前に経済産業大臣の確認が必要とされており、事前に納税猶予制度を利用することを想定していなければ、適用できませんでした。ところが、平成25年度税制改正で、経済産業大臣への事前確認が不要となり、相続が発生した後に、納税猶予制度を選択することができるようになりました。
 もちろん、納税猶予制度の要件を満たしていなければ、適用不能ですが、後継者がいる状態であれば、たいがいは要件に適合するように思えます。
 非同族株式の評価について、納税猶予制度を利用すれば、8割引の評価になります。さらに、将来的には納税猶予額の免除へと移行が期待できるので、事後の相続税対策の目玉的な存在になりました。
 一方で、事後の対策よりも事前の相続対策が重要なのは当然です。事前に意識しておけば要件に適合するように準備を行えますし、事前の相続対策を怠ってはいけません。

◆時系列にみる要件の比較

参照:時系列にみる要件の比較(PDF) 
※クリックでPDFが開きます。

◆納税猶予制度のリスク

(1)雇用の8割要件

 納税猶予制度は魅力的な制度のようで、あまり利用されてこなかった制度です。よく指摘されていたのは、5年間は雇用の8割以上を維持する必要があり、この判定が一定時点で行われることです。経営者側に落ち度がなくても、たまたま従業員の退職が続くことで、納税猶予が打ち切られるリスクがありました。この場合に、猶予された税額の全額と利子税を一括納付することが要求されました。
 上記の点について平成25年度税制改正で改善されることになりました。平成27年分の適用からは、雇用の8割については平均で要件を満たせばよいと緩和され、退職者に見合う人数の雇用を行えば、打ち切られる心配はなくなりました。また、仮に打ち切られた場合でも、延納や物納へ移行することが可能となり、リスクが軽減されました。

(2)資産管理会社

 納税猶予制度は5年間については雇用継続要件などの厳しい条件がつきますが、5年経過した後はハードルが随分と低くなります。当初5年間もそうですが、納税猶予期間中、常に気にする必要があるのは資産管理会社に該当しないようにすることです。逆に、この点について注意しておけば、大きなリスクはないと考えられます。
 資産管理会社は、二つにグルーピングされており、下記の二つの基準があります。

  1. 資産保有型会社
    特定資産の合計額÷総資産価額≧70%
  2. 資産運用型会社
    直前期の特定資産の運用収入÷直前期の総収入金額≧75%

特定資産は、下記の資産をいいます。

  • 有価証券等
    その中小企業者の特別子会社のうち資産保有型又は資産運用型会社でない会社の株式は、除かれます。
  • その中小企業者が現に自ら使用していない不動産(遊休地・賃貸用不動産・販売用不動産)
  • ゴルフ場その他の施設の利用に関する権利※1
  • 絵画、彫刻、工芸品その他有形の文化的所産である動産、貴金属及び宝石※1

     ※事業の用に供する目的のものは除く

 特定資産の運用収入は、上記特定資産の運用収入及び特定資産の譲渡収入です。

 簡単に言えば、資産運用のみを行い、雇用を創出しないような会社は、納税猶予制度は適用できないということです。
 逆に、上記の資産管理会社に含まれる場合でも、以下の全ての要件を満たす場合は、資産管理会社に該当しないとみなされる取扱いがあります。

  • 常時使用従業員(社会保険加入者)が5人以上
    平成27年以降は、上記5人の判定について経営承継人と生計を一にする親族以外で計算することになります。
  • 事務所、店舗等の固定施設を所有又は賃借
  • 相続開始の日までに3年以上継続して、商品販売、資産の貸付、役務の提供等を実施していること

 具体的には、老舗で不動産収入の割合が高いけれども、実際に商売を行い、従業員数をある程度抱えているような場合は、救済されるという取扱いです。

 上記以外にも、会社を解散した場合や、資本金又は準備金の額を減少した場合などの打ち切り事由があります。例えば会社を解散すれば、会社財産が株主に分配されることになり、実質的に株式の譲渡と同等の結果を作り出せます。また、資本金又は準備金を減少させることで、本来は会社財産のうち配当できなかった部分を配当財源に回せるので、配当を利用した株式の換金化がでてきてしまうからです。いずれにしても、普通に事業を継続している場合には無関係といえます。

 結局は、5年間の雇用継続と、それ以後は、事業を継続して資産管理会社にならないことに配慮しておけば、それほど大きなリスクはないと考えられます。リスクが軽減されたことで、事業承継税制は格段に身近になりました。是非、活用を検討してみましょう。

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