労務最新情報

2015年08月19日号 (第1)

その他の法改正と就業規則への反映

平成27年12月1日からストレスチェックの実施義務化されます。

労働安全衛生法の改正

 平成26年6月25日に「労働安全衛生法の一部を改正する法律」が公布されました。
 今回の法改正は、うつ病などの精神障害を原因とする労災件数の増加、社会問題化した化学物質利用の影響による胆管がん事案、同一企業における同種の重大な労災事故の多発など、最近の労災事案の状況をふまえて、「労働災害を未然に防止するための仕組み」を充実させることを目的としています。
 各改正項目は、平成28年6月にかけて順次施行されます(下図参照)。
 以下、主な改正項目について、ポイントを確認してみましょう。
① 化学物質のリスクアセスメントの実施
特別規則の規制対象外の化学物質のうち、一定の危険性・有害性があるものについて、事業者にリスクアセスメント(危険性・有害性等の調査)を義務づけるものです。
② ストレスチェック制度
 労働者の心理的な負担の程度を把握することを目的として、医師・保健師等による検査(ストレスチェック)の実施を義務づけるものです(詳しくは後述します)。
③ 受動喫煙防止対策の推進
 労働者の健康の保持・増進のための取組みとして、事業場の実情に応じて適切な措置を講じることを努力義務とするものです。
④ 重大な労働災害を繰り返す企業への対応
 死亡災害や重度の障害等級に該当するような重大な労働災害を繰り返す企業に対して、改善を促
し、再発防止を目的とするものです。
⑤ 外国に立地する検査機関等への対応
 特に危険性が高い機械を製造等する際の検査や検定について、国外の検査・検定機関でも受けられるようにするものです。

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特に重要な「ストレスチェック制度」

 精神障害での労災認定件数が急増していることなどをふまえて、労働者の心理的負担の状況を把握し、メンタルヘルスの不調を未然に防止するために、従業員数50人以上の事業場に対し、ストレスチェック制度が義務づけられました。
 制度の流れは以下のとおりです(下図参照)。
① 医師や保健師等によりストレスチェックが行なわれる
② 労働者で希望する者は、事業者等に対して医師による面接指導の申出を行なう
③ 事業者は、医師に対して、労働者の面接指導の実施を依頼する
④ 医師が面接指導を実施する
⑤ 事業者が、医師から当該労働者に対する就業上の措置等についての意見を聴取する
⑥ 事業者は、⑤の意見を参考として、必要な場合には適切な就業上の措置(作業の転換、労働時間の短縮等)を講じる

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制度運用の主なポイント

① 年1回のストレスチェックを従業員数50人以上の事業場に義務づけ
 従業員数は事業場単位のもので、法人全体のものではありません。法定の健康診断を受診すべき労働者が対象です。
 なお、従業員数50人未満の事業場については努力義務とされます。
② 労働者には受診義務はない
 法定の健康診断とは異なり、労働者にストレスチェックの受診義務はありません。ただし、事業者には実施義務があるため、受診機会を提供しなければなりません。
  また、労働者の同意がない限り、事業者はストレスチェックの結果を把握できないことに注意を要します。
③ ストレスチェックの項目
 「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」を基準に、仕事のストレス要因・心身のストレス反応・周囲のサポートの3領域に該当する項目をすべて含めることが適当とされています。
④ ストレスチェックと面接指導の実施者
 ストレスチェックは医師、保健師、その他の厚生労働省令で定める者(一定の看護師・精神保健 福祉士)が実施できる一方、面接指導は医学的な知見を有する医師に限られます。
⑤ 結果報告の同意等
 プライバシー保護の観点から、検査結果はストレスチェックの実施者(医師等)から労働者に直接通知され、労働者の同意を得ずに会社に提供することはできません。
 医師の面接指導についても、労働者の希望がない限りは実施できません。

ストレスチェックに関する就業規則の整備

 健康診断と同様に、ストレスチェックの実施に関して、就業規則で定めておく必要があります。

パートタイム労働法の改正

 正社員と職務内容や人材活用の仕組みが変わらないのに、パートタイム労働者が差別的な取扱いを受けている実態は少なくありません。
 そこで、平成27年4月1日からパートタイム労働法(短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律)や施行規則、パートタイム労働指針の一部が改正されました。
 今回の主な改正ポイントは以下のとおりです。

(1) パートタイム労働者の公正な待遇の確保

① 差別的取扱いが禁止される対象範囲の拡大
 有期労働契約を締結しているパートタイム労働者であっても、職務内容、人材活用の仕組みが正社員と同じ場合には、正社員との差別的取扱いが禁止されます。
② 「短時間労働者の待遇の原則」の新設
 事業主が、パートタイム労働者と正社員の待遇を相違させる場合は、「その相違は、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない」とする規定が新設されました。事業主は、職務内容や人材活用の仕組みの実態を検証し、必要に応じてパートタイム労働者の雇用管理の改善を図っていく必要があります。
③ 通勤手当を均衡確保の努力義務の対象に追加
 距離や実費に関係なく一律に支払うような「通勤手当」は、職務の内容に密接に関連して支払われるものとされ、正社員との均衡を考慮し、パートタイム労働者の職務内容、成果、意欲、能力、経験などを勘案して金額を決定するように努める必要があります。

(2) パートタイム労働者の納得性を高める措置

 主な措置として以下のものが挙げられます。
① 雇入れ時の事業主による説明義務
 事業主は、パートタイム労働者を雇い入れたとき(労働契約の更新時を含みます)は、実施する雇用管理の改善措置の内容を説明しなければなりません。さらに、パートタイム労働者から説明を求められたときにも説明義務が生じます。
 賃金制度や教育訓練、福利厚生施設、正社員転換推進措置の内容等を説明することになります。
② 説明を求めたことによる不利益取扱いの禁止
 パートタイム労働者が①の説明を求めたことを理由に不利益な取扱いをしてはなりません。
③ 相談に対応するための体制整備
 事業主は、パートタイム労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければなりません。
④ 相談窓口の周知
 パートタイム労働者を雇い入れた際、事業主が文書の交付などにより明示しなければならない事項に「相談窓口」が追加されました。
 就業規則の条文例としては、以下のようなものが考えられるでしょう。

    第○条(相談窓口)
    1.会社はパート従業員からの相談等に対応する窓口を人事部内に設置し、人事部長を責任者とする。
    2.相談窓口は、次の各号の問合せ・相談について対応する。
    (1) 労働条件や福利厚生に関する事項
    (2) 正社員転換推進措置や教育訓練に関す る事項
    (3) パートタイム労働法に関する事項
    (4) その他、パート従業員の雇用管理の改 善等に関する事項
    3.会社は、相談窓口を利用するパート従業 員に対して、不利益な取扱いを行なわない。

(3) 法の実効性を高めるための規定の新設

 厚生労働大臣の勧告に従わない事業主の公表制度、虚偽の報告などをした事業主に対する過料(20万円以下)が新設されました。

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