税務最新情報
2024年06月03日号 (第506)
税務調査で「これまで認められてきた」との主張は有効か?
マスコミが一斉に定額減税の話題を報道しています。実務感覚だと、減税しきれなくて給付になるケースが半分くらいという雰囲気でしょうか。
さて今回は、税務調査で税務署側に「これまで認められてきた」と主張するケースの是非について、検討していきます。
プロ野球選手の申告漏れ報道
有名なプロ野球選手が1億円の申告漏れを疑われるも、修正申告に応じないとの報道があり注目を浴びています。一般的な申告漏れの報道であれば、修正申告と納税を済ませてから、報道されることが多いのですが、今回は進行中ということなので、少し不可解な事案です。
報道によれば、納税者が「これまで飲食費は認められてきた」と主張しているとされています。納税者が「前の税務調査で問題にならなかった」と主張するケースはありがちですので、「これまで認められてきた」との主張の効力について検討してみます。
税務の世界における信義則
民法1条2項に「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」との条文があり、民法の基本原則の一つとされ、信義則の原則と呼ばれています。
税務の世界でも、信義則が適用されるか否かは古くから論点となっており、最高裁の判決も出ています。税務の世界における信義則を具体例に当てはめると、税務職員が誤った指導をして、その誤った指導に基づいて納税者が申告した場合、納税者が救済されるのかという問題です。
昭和62年10月30日の最高裁判決によれば、信義則が適用される場合があるとしつつも、下記のような特別な事情がある場合だけとしています。
・税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示し ・納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動し ・上記の表示に反する課税処分が行われ ・納税者が経済的不利益を受けることになった ・さらに、納税者の責めに帰すべき事由がないこと |
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https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=70488
実務に置き換えると、以前の税務調査で大丈夫と言われたと主張しても、それを根拠としてそのまま認められることは少ないという結論になってしまいます。
答えがでない問題が生じた場合の解決法
実務を行っていると、法律に当てはめても答えがでないような場合があります。そのような場合、税務署に相談しても全く効果がないかというと、一定の効果が生じる場合もあります。
例えば、下記のように文書回答という形で、国税庁が回答してくれる場合があります。少なくともこのような回答は、上記の要件の内の「公的見解」に該当することになります。
https://www.nta.go.jp/law/bunshokaito/01.htm
文書回答に至らない場合でも、所轄税務署で個別の取引について照会することが可能です。事前予約をした上で照会した場合、税務署の見解通りの処理をしていれば、税務調査があった場合に尊重してもらえるのが実務です。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/sodan/kobetsu/index.htm
結局のところ、税務調査の現場で「前の税務調査で大丈夫と言われた」とか、「税務署に電話して大丈夫と言われた」という話は通用しないケースの方が多いでしょう。本当に難しい事案であれば、申告を行う前に税務署に予約をして、十分な資料を提供した上で、相談の記録を残してもらうなどの工夫が必要です。
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