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2018年04月02日号 (第355)

10割引になった事業承継税制

 みなさん、こんにちは、桜の花がまぶしいくらいです。つい最近まで、寒い寒いと思っていたのが嘘のように暖かい日もあります。相変わらず、花粉が飛んでいるようで、つらい人にとっては苦難の季節のようです。

 さて、今回は平成30年度税制改正の目玉とも言える、事業承継税制の改正について、ご紹介していきます。内容も豊富で、経営者にとっては非常に関係が深い税制ですので、何回かに別けてご案内します。今回は、全体像です。

◆10割引きになった納税猶予

 事業承継税制は、平成21年度税制改正で導入されました。取引所の相場のない株式については、換金性に乏しく、相続税評価は高くなるなど、事業承継の障害となっていたため、適用対象株式についての相続税の8割について、納税猶予、そして一定の要件をみたすことで、猶予額が免除される制度でした。納税猶予額が免除されれば、その株式について相続税が8割引になるということで、注目を集めた制度です。

 その8割引の制度が、平成30年度税制改正により、10割引の制度になりました。もちろん、納税猶予を受けるための条件、手続き、最終的に猶予額の免除までと考えると、それなりに手間と時間がかかります。しかし、対象株式については相続税が結果としてかからなくなる制度ですから、利用可能な場合には、是非利用したい制度です。

◆リスクの軽減

①雇用維持要件
 鳴り物入りで導入された事業承継税制ですが、導入当初は、雇用維持条件など厳しい条件があり、その条件を満たせないと、納税猶予が取消し、猶予額を利子税と合わせて納付する必要がありました。

 雇用維持条件が、なぜ厳しいかというと、①景気が悪くなるなど外的要因で、従業員を減らさなくてはいけない状況になっても従業員を減らしにくい、②元々、人数が少ない法人の場合は、従業員が数人辞めただけでも要件から外れる、③従業員の退職は経営者側ではコントロールしにくく、たまたま退職者が続くことでも要件から外れるなど、納税猶予制度を受けた側が気を付けても回避出来ないようなリスクを有する制度でした。

 この点については、雇用維持などの要件を瞬間で判断していたものを、平均で判断するなど少しずつ、要件を緩和してきました。平成30年度税制改正では、要件を満たせなかった理由を記載した書類を提出することで、納税猶予が継続出来るようになり、事実上は雇用維持要件が廃止に近い状態になります。

②打ち切りになった場合の一括納付
 その株式の8割について、納税猶予を受けるのはよいのですが、何らかの事由で、納税猶予が打ち切りになった場合に、利子税と合わせて税額を一括納付しなければならないという問題がありました。

 この点についても、相続時精算課税へ切り替える事で、税率2割と基礎控除で、リスクを軽減出来るように改正されてきました。ただ、相続時精算課税へ切り替えは適用対象者が推定相続人であることが条件であったため、他人への承継でのリスクは残ったままでした。この点について、平成30年度税制改正では、親族外承継でも相続時精算課税への切り替えを可能にして、根本的なリスクを取り除きました。

 

◆普通に使える納税猶予制度へ

 平成21年に導入されて、最初の頃は殆ど利用されない制度でした。少しずつ、改善され、現在ではリスクが非常に少ない制度になりました。また、課税庁が、事業承継の税負担を軽くするために用意した制度ですから、安全で問題になりにくい制度です。

 事業承継税制ができる前から、農地等の納税猶予制度が存在し、農家で相続税がかかるような場合には、ごく普通に利用されている制度でした。もっとも、農地をもっていても相続税がかからないケースも多数ありますから、利用件数で言えば年間で1,500件前後と少なくなっていますが、平成16年以前は年間で3,000件を超える利用がありました。

 一方で事業承継税制は平成21年度から平成26年度が年間150件~200件の利用、改正で使いやすくなった平成27年度で、450件強ということで、農地等の納税猶予に比べ、利用件数は少ない状況でした。

 この点については、農地等の納税猶予は、利用するのが当たり前の制度であるのに対して、事業承継税制はそのような土壌がなかったと判断出来ます。平成30年度税制改正では、事業承継税制が、利用するのが当たり前の制度に変化したと言っても過言ではないでしょう。

 

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