税務最新情報

2026年10月13日号 (第590)

報道された申告漏れについて検討

 みなさん、こんにちは。東京は長く雨が続きましたが、ようやく晴れる日も出てきました。過ごしやすい気候です。

 今回は、各紙が報じたある著名人が代表を務める会社の申告漏れを取り上げます。以下の事実は報道によるもので、私が個別に確認したものではありません。

報じられた取引の流れ

 甲社は、取引の相手方が用意したB社の株式を5億8,800万円で取得しました。その後、甲社は配当を受け取り、株式の価値が大きく下がった状態で、これを代表者側に150万円で売却したと報じられています。5億8,800万円で買った株を150万円で売ったので、差額の5億8,650万円が売却損として計上されていました。

 子会社から受け取る配当には、原則として法人税がかからない制度があります。この制度の下では、配当を受けても課税されず、その後に株を売れば売却損が出る形になります。

 東京国税局は、この損失を経済的な合理性を欠く実態のない取引と判断して認めず、2023年9月までの3年間で5億8,650万円の申告漏れを指摘し、約5,300万円を追徴したと報じられています。会社は、本税と過少申告加算税を納付したと発表しています。所属事務所は、事実を偽ったり隠したりしたとの指摘は受けておらず、重加算税も課されていないと説明しています。

問題の所在はどこか

 配当を受ければ、その分だけ株の価値は下がります。価値の下がった株を売れば、売却損が出ます。会社側は、当時の専門家から適法な取引との説明とともに提案を受けたとコメントしており、個々の場面だけを取り出せば、制度上は想定された取引です。

 ただし、それぞれの場面が認められているからといって、全部をつなげた結果まで認められるとは限りません。

なぜ認められなかったのか

 背景の一つは、実質的な損失が生じていないことでしょう。甲社は5億8,800万円で株を買いましたが、大部分を配当として受け取っており、実際に失ったお金はほとんどありません。損をしていないのに損失だけが計上され、税金が減る形になっています。

 報道では、否認の理由が二通りに伝えられています。一つは、不当な税負担の軽減にあたると判断したとするものです。これは、オーナー一族が支配する会社の取引が、法人税の負担を不当に減らす結果になる場合に、その取引を否認して課税する同族会社の行為計算否認の考え方と重なります。法人税法132条に定められています。もう一つは、実際の代金のやりとりがなかったことなどから、実態のない取引と判断されたとするものです。こちらは事実認定の問題で、帳簿や契約書が整っていても、取引の実体が確認できなければ、そもそも取引が成立していないとみる考え方です。

 国税がどちらの理屈を取ったのか、あるいは両方を併せて考えたのかは公表されていないため、断定はできません。なお、重加算税が課されていないことから、仮装や隠蔽とまでは認定されなかったとみられます。買って配当を受け、売って損を出すという一連の流れに、税金以外の理由が見えにくかった点は、いずれの考え方でも重視された可能性があります。

形式より実質が見られる

 税の制度は、事業上の必要から行われる取引を前提に設計されています。契約書や会計処理が整っていても、経済的な実質が伴わず、税負担の軽減だけが目的と見られる取引は、税負担の公平の観点から、否認されることがあります。適正な申告のためには、個々の処理が制度に沿っているかだけでなく、取引全体として何が行われたのかを見る視点が欠かせません。

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