東法連ニュース

第2014年(平成26年)12月号 第346号

法人実効税率引下げの代替財源を分析
「税を考える週間」協賛講演会を開催

熱心に聴き入る参加者

熱心に聴き入る参加者

 東法連では10月23日、飯田橋のホテルメトロポリタンエドモントで、「税を考える週間」協賛講演会を開催し、各会の税制委員ら約140名が参加した。
 講師は慶応義塾大学経済学部教授の土居丈朗氏で、「法人税改革の行方?実効税率の引下げ・地方税制のあり方等?」をテーマに講演があった。講演内容は法人実効税率引下げの代替財源分析などが中心で、詳細はこちらPDFデータでもご覧になれます

◆少子高齢化・グローバル化などは、重要な課題ではなかった

 所得税、法人税、消費税が基幹税として位置づけられたのは、消費税が導入された平成元年である。そのころ、わが国にとって重要な課題と思われていなかったことが、今日極めて重要な解決し難い課題となっている。それが、少子高齢化、グローバル化、財政健全化、地方分権化の4つである。もちろん歳出面での対応も必要だが、それぞれの課題に税制がどう応えるかを検討することが重要である。

 今日のメインであるグローバル化の話でいえば、高い法人税率を続けていると、短期的には税収を確保できるが、日本企業の国際競争力喪失、海外移転などを通じて税収がジリ貧になってしまう恐れがある。今日は、税収を確保しつつグローバル化時代に適合した税制を形づくっていく税制改革について考えてみたい。

◆法人税率引下げのキーワードは代替財源の確保

 各国の税収構造を見ると、我々は個人所得税は重い負担をしていると思っているが、税収面から見ると他の国々と比べて少ない比率である。消費税はカナダと並んで少ない方であり、法人税は税率の高さから高い比率になっている。

 法人税率の引下げは来年度からと閣議決定されているが、代替財源の確保がキーワードになってくる。税率引下げと同時に課税ベースの拡大をセットで行うことを考えている。

 納税企業は全体の3割弱であるから、税率を引下げても意味がないという指摘がある。しかし中身をもう少し考えるべきで、繰越欠損金の控除で所得がゼロになった法人が3割弱ある。こういう企業はいずれ納税企業に変わるので、納税企業と併せ税率引下げの効果があるといえる。

◆法人税は法人税の中でとの考えから課税ベース拡大の方向に

 税収を悪化させて法人税率を引下げることは難しいので、何らかの代替財源が求められる。歳出削減を優先すべきであるが、わが国の税制をめぐる決定過程、政治プロセスでは縦割りが強く、税は税、支出は支出という感覚が強い。法人税は法人税の中でという考え方からどうしても課税ベース拡大の方向に行ってしまう。

 税は税の中でというならば、他の税はどうか。消費税は社会保障の財源として活用することになっているので、少なくとも10%までは法人税の代替財源とすることは予定していない。また、所得税から財源を生み出すことは簡単ではない。

◆欠損金の繰越控除期間を延ばし、控除割合を減らせば代替財源になる

 かつて、欠損金の繰越控除期間を延ばす代わりに控除割合を減らす税制改革が行われた。控除期間が延びるというのは企業側にもメリットがある。控除割合を減らされるのは痛いが、控除の使い残しがなくなる可能性が高くなる。

 仮に繰越期間15年、控除割合60%とした場合、40%分が所得として残り課税される。控除割合を減らすという効果が先に来るので、税率を引き下げなければ短期的には増税になる。しかし、税率を下げれば税負担は増えない。課税ベースは広がっているけど、税率を下げるということで差し引きになるため代替財源になる。

 短期的に増税になるが、繰越期間が延びたことで繰越控除を使いきることができる。しかし、長期的に見ると税負担は軽くなり、その上税率も下がる。財務省はこのことを知っているので、単純にこれでとはならない。どの程度まで財源として認めるかのせめぎあいになっている。

◆受取配当金不算入割合の縮小は企業経営の核心に係わる問題

 持ち株比率が何%になるのかによって配当金が益金になるかならないか決まっている。支配関係で持っているのか、運用目的で持っているのかの境目を、今の日本の法人税制では25%にしている。25%より多く株を持っていれば、すべて益金不算入になり、25%以下では50%が益金算入になる。しかし、それを論理的に説明できるわけではない。

 この比率を変えるという案が存在するが、例えば50%に引き上げるとすると、4社折半で共同事業を行う場合などでも配当に課税されることになる。企業経営の核心に係わる問題にもなるので、経済界は難色を示している。また、銀行には5%、保険会社には10%の出資規制があって、持ちたくてもそれ以上持てない。すべてが益金算入となるので長年来大反対している。

◆減価償却方法の変更は反対が少ない

 減価償却の変更は割りと大義名分が立つ。国際会計基準が定額法で原価償却をする方向で進んでおり、税法もそれに合わせてはどうかという考えである。定率法だと1年2年でたくさん減価償却が出て、法人税収が減る。定額法に変えると短期的には増え、税率変えないとそのまま増税になってしまうから、税率を下げるための代替財源になる。これについては反対を強く唱えている人があまりいない。

◆租税特別措置をゼロベースで見直せというが、潰せないものがたくさんある

 租税特別措置は1兆円ぐらいある。ただ、これを見直すことで代替財源がでてくるとは思っていない。政府税制調査会ではゼロベースで見直せという意見が出ている。しかし、潰せない措置がたくさんある。

 例えば研究開発税制を全廃して、それでもなお税率引き下げの恩恵を受けるようにするためには、3・2%は下げないといけない。1%税率を引き下げるのに約5千億円の財源が必要だといわれている。では、1・5兆円がどこからでてくるのか。研究開発税制を全廃しても3千億円ぐらいしか出てこない。これでは大義名分が立たない。また、中小企業に適用している軽減税率を無くすと税率が上がることになる。税率を下げる、下げるといいながら上がってしまう。ゼロベース見直しという意味のないことは止めた方が良い。

◆法人住民税均等割がこの秋にきて有力視

 法人住民税均等割がこの秋にきて有力視されている。どれだけ利益を上げても、損をしても同じ額なのが法人住民税の均等割だ。今法人住民税で5千億円の税収を得ているので、単純に倍にすれば、税率は1%引き下げることになる。税額が上がっても定額なら、たくさん利益を上げれば、法人税率が下がった方が実質的には減税になる。赤字企業狙い撃ちという感じが無きにしも非ずだが。

◆付加価値割の比率を高めれば代替財源になるが中小企業への適用は難しい-外形標準課税 

 外形標準課税は基本的に大企業だけ、資本金1億円超の企業だけに適用されている。これを税収から見ると、付加価値割が0・4兆円、所得割が1・6兆円で、1対4の比率になる。資本割はわかりやすくするため無いものとすると、仮に所得割を半分にすると0・8兆円の税収を失うが、付加価値割を3倍にすれば0・8兆円上乗せされるので、税収は減らない。

 実効税率というのは所得割だけの税率を指すので、法人税率を下げたことになり、代替財源になるという議論が進んでいる。では、付加価値割の仕組みを中小企業に適用できるかとなると、熟慮が必要になる。付加価値割は消費税と違って加算法付加価値税であり転嫁できない。消費税のような簡易課税制度を考えるという方法もあるが、簡単ではないので、来年度からということはなさそうである。

 

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