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2018年05月21日号 (第360)

事業承継税制の取消事由

 みなさん、こんにちは、気候は初夏という雰囲気で30度近くまで気温が上がる日もでてきました。過ごしやすい季節は短いものです。

 今回は、事業承継税制の取消事由について、ご紹介していきます。

◆事業承継税制のリスク

 基本的に、事業承継税制はメリットが大きく魅力的な制度です。ただし、一定の場合に、納税猶予が取り消されてしまうリスクがあります。

 納税猶予が取り消されてしまうことで、猶予税額と利子税の納付が必要となります。元々、事業承継税制の適用を受ける理由は、株式の贈与や相続の際の税負担が高いことが理由ですが、その高い税金の支払いが必要になるわけですから、取消は大きなリスクと考えることができます。

 なお、納税猶予が取り消される場合の取消事由については、特例承継期間である5年間に限られる内容と、5年経過後も継続する内容があります。この取消要件に該当するか否かについて明らかにするために、特例承継期間である5年間は、毎年都道府県知事に報告手続きを行い、さらにその後は3年に1度税務署への報告手続きが必要となります。

◆特例継承期間(5年間)の取消事由

 特例制度を受けてからの5年間の取消事由は下記の通りです。

① 上場会社等又は性風俗営業会社に該当したこと
② 贈与日又は相続開始の日の従業員数の8割以上を5年間平均で維持する要件を満たさなくなったこと
 ※この点については、従来から事業承継税制の最も大きなリスクとして懸念されていましたが、今年の改正で、事実上撤廃されています。 
 具体的には、報告書に8割を下回る数となった理由について認定経営革新等支援機関の所見の記載があり、その理由が経営状況の悪化である場合又はその認定経営革新等支援機関が正当なものと認められないと判断したものである場合には、認定経営革新等支援機関による経営力向上に係る指導及び助言を受けた旨が記載されている必要があります。
 一方で、報告書へ必要な記載がなかった場合は、従来通り、取消になりますので、注意が必要です。 

③ 特別関係会社が、性風俗営業会社に該当したこと
④ 後継者以外の株主が拒否権付き株式を保有したこと
⑤ 後継者が取得した株式の議決権に制限を加えたこと
⑥ 後継者が会社の代表者でなくなったこと
⑦ 後継者グループで過半数の議決権を有さなくなったこと、又は、後継者が後継者グループの中で筆頭株主でなくなったこと
⑧ 贈与税の納税猶予の場合は、先代経営者が代表権に戻ること

◆特例継承期間及び、それ以後も継続する取消事由

① 資産保有型会社又は資産運用型会社に該当したこと
② 事業年度の総収入金額がゼロになったこと
③ 資本金・資本準備金を減少したこと
  ※例えば、事業承継税制後20年経過してから、減資をしたら取消事由に該当します。長年の管理の仕方が重要になります。
④ 会社の解散、合併による消滅、分割型分割による会社分割、株式交換等による子会社化
⑤ 期限までに税務署に報告をしなかったこと、又は、報告内容と事実が相違すること
⑥ 税務署に事業承継税制の適用をやめる旨の届出書を提出したこと
⑦ 後継者が、対象株式を譲渡又は贈与したこと

 

 最初の5年間は、取消に関する要件が厳しく、5年経過することで緩和されますが、株式を処分することは、換金と同様の効果がありますから、納税猶予は取消となります。また、減資などは、会社に株式を売却するのと同じ効果があるので取消事由となっています。

 従来は、5年間の雇用継続が大きなリスクと言われていましたが、今年の改正で手続きをしっかりとすれば、事実上の取消事由ではなくなりました。

 非常にメリットの大きい制度ですが、裏を返すと、取り消された場合にデメリットが大きいということであり、長年にわたり取消事由に該当しないように気を配っていくことが重要です。事業承継税制の適用判断については、長期間のメンテナンスに伴う精神的な負担と、今現在の税負担とのバランスで判断することになりそうです。

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