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2013年05月01日号 (第188)

教育資金の一括贈与制度

 みなさん、こんにちは、税理士の飯田聡一郎です。ゴールデンウイークはどのようにお過ごしでしょうか。ゴールデンウイーク中に帰省される方も多いと思います。親元から離れて暮らしている場合は、久しぶりに顔を見せるチャンスですね。
 今回は、平成25年度税制改正で導入された、教育資金の一括贈与制度について、ご紹介します。これから教育費がかかるお子さんがいる家庭では、本制度の利用について是非検討すべきです。

◆教育資金の一括贈与制度の概要

 教育資金の一括贈与制度とは、親、祖父母などの直系尊属が、30歳未満の受贈者である子や孫に、教育資金を一括で贈与する場合に1500万円までの非課税枠を設けるというものです。
 この場合に、直系尊属からとの取扱いですから、親、祖父母に限らず、曾祖父母からの贈与でもかまいません。

 金額は、1500万円が上限と言うことであり、例えば既に孫が大学生で、あと3年間の授業料分相当の300万円のみを贈与することも可能です。

 ただし、本制度を利用する場合には、単純に子や孫へ贈与すればよいというわけでは、ありません。本制度を使う旨の契約を金融機関と行い、金融機関に子や孫の名義の新設口座を開設して、その口座へ拠出することによって実行することになります。

◆教育資金の一括贈与後の流れ

 教育資金として、金融機関へ拠出した金額は、教育資金が必要な都度、金融機関から振込をする形か、いったん自己資金で教育資金を立て替えて、領収書と引き換えに引き出す方法により、教育資金として使っていくことになります。

 なお、贈与を受けた子や孫が、30歳になった段階で、未使用の教育資金が残っていた場合は、その段階で、贈与されたとして、通常の贈与税課税が行われます。一方で、教育資金として、使い切り残額がなければ、一切贈与税はかからないで済むことになります。

◆教育資金の範囲

 教育資金の範囲ですが、基本的には学校等に対する支出をいいます。ただし、学校等以外に支払われるものについては、500万円まで認めるという取扱いがあります。内容については、概ね下記のとおりです。

 1)学校等に対する支出

  • 幼稚園、小学校、中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校
  • 大学、大学院
  • 高等専門学校
  • 専修学校、各種学校
  • 保育所、保育所に類する施設、認定こども園
  • 外国の教育施設のうち一定のもの
  • 水産大学校、海技教育機構の施設(海技大学校、海上技術短期大学校、海上技術学校)、航空大学校、国立国際医療研究センターの施設(国立看護学校)
  • 職業能力開発総合大学校、職業能力開発大学校(※)、職業能力開発短期大学校(※)、職業能力開発校(※)、職業能力開発促進センター(※)、障害者職業能力開発校

注:※印の施設は、国・地方公共団体・職業能力開発促進法に規定する職業訓練法人が設置するものに限ります。

 これらの費用は、学校等に対して支払われたことが、学校等からの領収書等により確認できる費用が対象であり、例えば、入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費、教育充実費、修学旅行・遠足費などが挙げられます(学校等が費用を徴収し、業者等に支払う場合も含みます)。

 

 2)学校等以外に支払われるもの

イ 塾や習い事など、学校以外の者に支払われる費用

●下の①~④の教育活動の、指導の対価(月謝、謝礼、入学金など)として支払う費用や、施設使用料。

●下の①~④の活動で使用する物品の費用。ただし、上記の指導を行う者を通じて購入するもの(指導を行う者の名で領収書が出るもの)に限ります。一方で、個人で購入した塾のテキストなどは対象となりません。

  1. 学習(学習塾・家庭教師、そろばんなど)
  2. スポーツ(スイミングスクール、野球チームでの指導など)
  3. 文化芸術活動(ピアノの個人指導、絵画教室、バレエ教室など)
  4. 教養の向上のための活動(習字、茶道など)

ロ イ以外(物品の販売店など)に支払われるもの

●学校等で必要となる費用を業者に直接支払った場合でも、学校等における教育に伴って必要な費用で、学生等の全部又は大部分が支払うべきものと当該学校等が認めたものは、500万円の非課税枠の対象になります。

この場合は、領収書等に加え、学校等が認めたものであるとわかるものを金融機関に提出する必要があります。

◆相続税対策としての教育資金の一括贈与

 教育資金の一括贈与制度は、教育資金として使い切ってしまえば、贈与税は課税されないことになります。一方で、全額が利用されないまま、贈与を受けた者が30歳になった場合は、残金について贈与税が課税されることになります。
 つまり、教育資金として使い切る金額の贈与であれば、税負担が生じないという特徴と、贈与を受けた者が30歳になるまで、課税を先送りできるという特徴があります。
 たとえば、高齢で数年内には相続が発生しそうな場合に、孫やひ孫に教育資金の贈与を行えば、当面の相続税負担を無くすこと、あるいは税率を低く抑えるような効果が期待できます。

 特に、孫やひ孫などが対象となるため、孫の数が5人以上、ひ孫の数なら十数人というケースも考えられます。つまり、現預金を多額に保有している場合は、相続税の課税価格を引き下げる対策として非常に効果的に使える可能性があります。また、不動産などを保有する場合も、いったん換金して、教育資金の贈与という形で、相続税の対象となる財産から切り放すことが可能です。
 なお、通常の流れなら、祖父の相続が発生し、相続税が課税された後、父親に財産が移転し、その中から教育資金を拠出することになります。それに対して、教育資金の一括贈与を利用すれば、税引前の資金を丸々教育資金として利用できるので、相続税が課税されることが予定される場合は、本制度を利用することで明らかに有利になります。つまり、相続税がかかる場合で、対象となる子や孫がいる場合には絶対に利用すべき制度と考えられます。
 なお、本制度は、平成25年4月1日から、平成27年12月(延長の可能性あり)までの期間に行われた一括贈与について適用可能となっており、今すぐに利用を検討すべき制度です。

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